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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
…主人と使用人の恋は幸せになれない…か。
狭霧は階下のベッドに横たわり、昼間の橘の言葉を反芻していた。
なぜ、橘さんはあんなにはっきりと明言したんだろうか。
まるで…当事者みたいに…。
…と考えて、狭霧は小さく笑う。

…そんな馬鹿な。
あの厳格でストイックで執事の鑑のような橘さんが…そんなことある訳がない。
そう思い返す。

…就寝時間の11時は、とうに過ぎていた。
けれど、なかなか眠りに就けない。
ふっとため息を吐く。
狭霧に与えられた私室は、一人部屋だった。
気楽で良いが、たまに急に寂しくなることがある。

…狭霧は一人寝が苦手だ。
実家に居た時は、よくユキと寝ていたし(ユキが一緒に寝たがったからだが)和彦と暮らすようになってからは、常に同じベッドで同衾していた。

…月城くんの部屋に遊びに行ってみようかな…。
と、考えたが…
いや、彼は明日も大学の授業があるから、起こしたらかわいそうだな。
…真面目な彼のこと、まだ勉強をしているかもしれないし…。

…と、その時。

ドアを叩く密やかなノックの音が、聞こえてきた。

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