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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
翌日、北白川伯爵は梨央と二人、上野動物園に出かけていた。
梨央との私的な外出には、狭霧は随行しないことにしていた。
多忙な伯爵が梨央と過ごせる時間は限られている。
…梨央には、親子水入らずで楽しみ、そして伯爵に甘えてほしかったからだ。

伯爵が不在だと、狭霧も比較的のんびりと業務をこなす。
午後のお茶の時間、階下の食堂で料理長の春が焼いてくれたスフレを下僕たちと賑やかに食べていると、執事の橘が現れた。

素早く起立する使用人たちを見渡したのち、橘は狭霧に眼を向け告げた。

「狭霧さん。
小客間に来てください」
「はい。橘さん」
反射的に返事をしたものの…
「…小客間…?」
と、すぐに尋ね返した。
客間は主人たちが使用する部屋だ。
伯爵が不在なのに、なぜ自分が呼ばれるのだろうか?

橘は硬質な横貌を微かに和らげ、答えた。
「…弟様がいらしています」

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