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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「ユキ⁈」
小客間に飛び込むなり、狭霧は叫ぶ。
上質な藍色の大島紬を身に纏った千雪が、弾かれたように椅子から立ち上がる。
「兄さん…!」
狭霧に駆け寄り、子どものように抱き着いてきた。
「兄さん!
兄さんだ…!やっと…やっと会えた…!」
泣きじゃくる千雪の華奢な背中を強く抱きしめる。
「…ユキ…」
…横浜港でこの身体を抱きしめたのは、もう四年も前のことだ。
あの頃より、背もすらりと伸び、青年らしい姿になっていたが、ほっそりとした肉付きの薄い華奢な体躯は相変わらずだ。
…そして、雪のように白い肌と可憐な少女のような容姿も…。
「…ユキ…。お前は相変わらず可愛いな…」
涙を堪えながら、その頬を軽く抓る。
「…兄さん…。
…兄さんも相変わらず綺麗だね…。
ううん。あの頃よりずっと大人っぽくて洗練されて素敵だ…。
…会いたかったよ…ずっと…」
薄桃色に上気した貌に泣き笑いの表情を浮かべ、千雪はまるで恋人のように熱い眼差しで狭霧を見上げる。
「俺もお前に会いたかったよ…。
…でも、まさか俺が家に貌を見せるわけにはいかないし…」
そして一番の疑問を口にする。
「ユキ。お前、どうやってここに来たんだ?」
内気で控えめな千雪が、自分からこの大貴族の屋敷を訪問したとはとても思えなかったからだ。
千雪は白い指で涙を拭いながら、答えた。
「今朝、北白川伯爵様が店にいらしたんだ。
そうして、ぜひ兄さんに会いに行ってくれ…と仰って下さったんだよ。
僕から行かないと、きっと兄さんは遠慮して永遠に会おうとはしないだろうから…て。
…わざわざ車まで差し向けて下さったんだよ」
「…旦那様が…」
…そんなこと、今朝は一言も言わなかったのに…。
狭霧の胸に、熱いものがじわりと込み上げてきた。
小客間に飛び込むなり、狭霧は叫ぶ。
上質な藍色の大島紬を身に纏った千雪が、弾かれたように椅子から立ち上がる。
「兄さん…!」
狭霧に駆け寄り、子どものように抱き着いてきた。
「兄さん!
兄さんだ…!やっと…やっと会えた…!」
泣きじゃくる千雪の華奢な背中を強く抱きしめる。
「…ユキ…」
…横浜港でこの身体を抱きしめたのは、もう四年も前のことだ。
あの頃より、背もすらりと伸び、青年らしい姿になっていたが、ほっそりとした肉付きの薄い華奢な体躯は相変わらずだ。
…そして、雪のように白い肌と可憐な少女のような容姿も…。
「…ユキ…。お前は相変わらず可愛いな…」
涙を堪えながら、その頬を軽く抓る。
「…兄さん…。
…兄さんも相変わらず綺麗だね…。
ううん。あの頃よりずっと大人っぽくて洗練されて素敵だ…。
…会いたかったよ…ずっと…」
薄桃色に上気した貌に泣き笑いの表情を浮かべ、千雪はまるで恋人のように熱い眼差しで狭霧を見上げる。
「俺もお前に会いたかったよ…。
…でも、まさか俺が家に貌を見せるわけにはいかないし…」
そして一番の疑問を口にする。
「ユキ。お前、どうやってここに来たんだ?」
内気で控えめな千雪が、自分からこの大貴族の屋敷を訪問したとはとても思えなかったからだ。
千雪は白い指で涙を拭いながら、答えた。
「今朝、北白川伯爵様が店にいらしたんだ。
そうして、ぜひ兄さんに会いに行ってくれ…と仰って下さったんだよ。
僕から行かないと、きっと兄さんは遠慮して永遠に会おうとはしないだろうから…て。
…わざわざ車まで差し向けて下さったんだよ」
「…旦那様が…」
…そんなこと、今朝は一言も言わなかったのに…。
狭霧の胸に、熱いものがじわりと込み上げてきた。