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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…旦那様…」
狭霧は思わず胸が一杯になった。
…今朝、送り出すときには何も仰らなかった。
いつものように朗らかに
『では梨央とデートをしてくるよ。
留守を頼んだ』
と爽やかな笑顔でロールスロイスに乗り込んだのだ。
「…兄さん…」
我に還ると、千雪が長く濃い睫毛の影からじっと狭霧を見つめていた。
「うん?」
「…兄さんは伯爵様に大切にされているんだね…」
「…そう…だな…」
少し照れたように髪を搔き上げ、言葉を続ける。
「…旦那様には巴里で命を救っていただいた。
あのまま、ぼろ切れのように朽ち果ててもおかしくなかったのに…。
旦那様が俺を救い上げ、新しい人生を与えてくれたんだ。
それから、ユキの手紙を俺に手渡してくれた。
…お前とこうして再会できたのも、全部旦那様のお陰だ」
「…そうだよね…。
素晴らしい方に巡り会えて、良かったね、兄さん」
…でも…
濡れた黒い瞳が微かに焦れたように狭霧を見上げた。
「…少し…妬ける…」
「へ?」
意外な言葉に、狭霧は眼を見開く。
「…兄さん、伯爵様に夢中みたいだから…」
拗ねたように狭霧を上目遣いで見つめる千雪にどきりとしながらも、わざと陽気に笑い飛ばす。
「まあなあ。
俺はかっこいいイカした大人が好きだからさ。
旦那様には憧れているんだ」
…それよりも…と、さりげなく話題を変える。
「ユキ、店はどう?父さんは?
お前、学校は?」
狭霧は思わず胸が一杯になった。
…今朝、送り出すときには何も仰らなかった。
いつものように朗らかに
『では梨央とデートをしてくるよ。
留守を頼んだ』
と爽やかな笑顔でロールスロイスに乗り込んだのだ。
「…兄さん…」
我に還ると、千雪が長く濃い睫毛の影からじっと狭霧を見つめていた。
「うん?」
「…兄さんは伯爵様に大切にされているんだね…」
「…そう…だな…」
少し照れたように髪を搔き上げ、言葉を続ける。
「…旦那様には巴里で命を救っていただいた。
あのまま、ぼろ切れのように朽ち果ててもおかしくなかったのに…。
旦那様が俺を救い上げ、新しい人生を与えてくれたんだ。
それから、ユキの手紙を俺に手渡してくれた。
…お前とこうして再会できたのも、全部旦那様のお陰だ」
「…そうだよね…。
素晴らしい方に巡り会えて、良かったね、兄さん」
…でも…
濡れた黒い瞳が微かに焦れたように狭霧を見上げた。
「…少し…妬ける…」
「へ?」
意外な言葉に、狭霧は眼を見開く。
「…兄さん、伯爵様に夢中みたいだから…」
拗ねたように狭霧を上目遣いで見つめる千雪にどきりとしながらも、わざと陽気に笑い飛ばす。
「まあなあ。
俺はかっこいいイカした大人が好きだからさ。
旦那様には憧れているんだ」
…それよりも…と、さりげなく話題を変える。
「ユキ、店はどう?父さんは?
お前、学校は?」