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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
別れ間際、千雪はいつものはにかんだような清楚な笑顔を狭霧に見せた。

「…さっきのは冗談だよ。兄さん。
…ちょっと揶揄っただけ…」
狭霧は密かにほっとする。
一瞬、本気にしてしまった自分がいたからだ。

「こら、大人を弄ぶな」
軽く小突く真似する。

…ふふ…と小さく笑い、千雪は狭霧の口唇にほっそりとした人差し指をそっと押し当てた。

…でも…

「…ありがとう…兄さん…」
どこか寂しげに独り言のように呟くと、送迎のロールスロイスに乗り込み、白い手を振ったのだった。

あっという間に小さくなる車の後ろ姿を見送りながら、狭霧は息を吐く。

…まさか…な。

「…まさか、ユキが俺を…なんて、ないよな…」
…あるはずがない。
あり得ない。
ユキは血の繋がった弟なのだから。

「誰が君を好きだって?」
背後からおおらかな…けれどどこか面白がっているような美しいバリトンの声が響いた。

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