この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
別れ間際、千雪はいつものはにかんだような清楚な笑顔を狭霧に見せた。
「…さっきのは冗談だよ。兄さん。
…ちょっと揶揄っただけ…」
狭霧は密かにほっとする。
一瞬、本気にしてしまった自分がいたからだ。
「こら、大人を弄ぶな」
軽く小突く真似する。
…ふふ…と小さく笑い、千雪は狭霧の口唇にほっそりとした人差し指をそっと押し当てた。
…でも…
「…ありがとう…兄さん…」
どこか寂しげに独り言のように呟くと、送迎のロールスロイスに乗り込み、白い手を振ったのだった。
あっという間に小さくなる車の後ろ姿を見送りながら、狭霧は息を吐く。
…まさか…な。
「…まさか、ユキが俺を…なんて、ないよな…」
…あるはずがない。
あり得ない。
ユキは血の繋がった弟なのだから。
「誰が君を好きだって?」
背後からおおらかな…けれどどこか面白がっているような美しいバリトンの声が響いた。
「…さっきのは冗談だよ。兄さん。
…ちょっと揶揄っただけ…」
狭霧は密かにほっとする。
一瞬、本気にしてしまった自分がいたからだ。
「こら、大人を弄ぶな」
軽く小突く真似する。
…ふふ…と小さく笑い、千雪は狭霧の口唇にほっそりとした人差し指をそっと押し当てた。
…でも…
「…ありがとう…兄さん…」
どこか寂しげに独り言のように呟くと、送迎のロールスロイスに乗り込み、白い手を振ったのだった。
あっという間に小さくなる車の後ろ姿を見送りながら、狭霧は息を吐く。
…まさか…な。
「…まさか、ユキが俺を…なんて、ないよな…」
…あるはずがない。
あり得ない。
ユキは血の繋がった弟なのだから。
「誰が君を好きだって?」
背後からおおらかな…けれどどこか面白がっているような美しいバリトンの声が響いた。