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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
「だから、いいんだ。
一度だけ、僕の気持ちを告白したかったんだ」
尚も続けようとする和彦を狭霧は手を挙げて遮った。
「ちょっと待て」
「…え?」
「お前さ、そんなさ、なんでもかんでも決めつけるなよ」
いきなりずけずけと詰め寄られ、和彦は眼を丸くする。
「…へ?」
「勝手に好きになって、独りよがりに告白して、自己完結して終わり?
本当に自分勝手なヤツだな」
「ご、ごめん…」
「俺の性的嗜好とかさ。
お前は俺の何を知っているっていうんだよ。
勝手に俺の貌だけ好きになってさ。
そりゃ俺は美形だよ。
俺を作った神様はデッサン力がずば抜けて優れていたんだろうよ。
ひとが俺を褒めるのもいつもそればっかり。
俺は貌しか取り柄はないの?」

「そ、そんなことない!」
和彦が不意に大きな声を出した。
そして、辿々しくはあるが必死に言葉を続けた。
「そんなことはないよ。
それは…最初は僕は君の美しい貌に惹かれた。
…でも君をずっと見ているうちに、君の描く絵や、君のセンスや、人を惹きつける話術や…それから、気が強いところとか、自分のしたいことや意見を押し通すところや、気に入らないことには空気も読まずにはっきり反論するところとか…僕にはない長所をたくさん持っていて、それにすごく惹かれたんだ」

狭霧はわざとじろりと和彦を睨みつけた。
「…長所…ねえ。
…それ、本当に褒めてるの?」
和彦ははっとした。
「…あ…ご、ごめん…。
気を悪くさせたらごめん。
僕は本当に、気の利かないつまらない男だから…余計なことばかり言ってしまうんだ…。
…だから、君に気に入ってもらえることなんて、ひとつも持ち合わせていないんだ。
自分でもよく分かっているんだ。
だから諦めよう…と思ったんだよ…」
…と、最後は哀しげに、項垂れてしまった。







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