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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
昼食は美しい庭園が見渡せる明るい昼食室で和やかに始まった。

月城たちが給仕した料理の数々は、チコリとクレソンのサーディンサラダ、ロブスターのカツレツ、コーニッシュパスティ…チキンとマッシュルームを詰めた半月型のパイ…山羊のチーズを詰めた温かいスタッフドトマトなどだった。

それらは料理長春の得意料理で、初めは緊張で固くなっていた暁も、口に運ぶ度に表情が柔らかくなっていったほどだ。
暁のテーブルマナーはややぎこちないものの、きちんと礼儀に適ったもので、とてもここ数ヶ月で身に付けたものとは思えなかった。
…生まれながらの貴族の子弟ではないこの少年が、如何に苦労してこれらを身に付けたのだろうかと思うと、控えめに微笑みを浮かべながら、大人たちの話に耳を傾けているその健気な様に月城は、温かい感情を抱いた。

料理は月城ら下僕が給仕する大皿料理から好きな量を各自がフォークとスプーンで取り分けるスタイルだ。
取りづらいスタッフドトマトを暁が掴み損ねそうになった時、月城はさり気なく皿を傾かせ、取りやすくした。
その意図を敏感に察知した暁は月城を見上げ、一瞬驚いたようにその美しい瞳を見張り、やがて…
「…ありがとうございます…」
と、はにかんだように可憐な目元を染め、小さな声で礼を述べた。
月城は瞳だけで微笑み返した。

…ひとつ残念なことはこの昼食会のテーブルに梨央が着けなかったことだった。
「…梨央も出席するはずだったのだが、数日前に気管支炎を起こしてしまってね。
ほぼ治ってきたのだが、大事を取って休ませているのだよ。
梨央も暁くんに会えるのを楽しみにしていたのだが…。
すまないね、礼也くん」
伯爵が誠実に詫びた。

礼也は優雅な所作でナイフを置き、気遣わしげに伯爵に尋ねた。
「もちろん、梨央さんの健康が何より大切です。
…それで…お加減は大丈夫なのでしょうか?」

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