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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「今朝も主治医に診察をしてもらった。
もう咳も収まってきたし、夜もぐっすり眠れていたので大丈夫だよ。
…日本にいるときくらいしか、甘やかせてあげられないのでね、ついつい過保護に甘くなってしまうな…」
苦笑する伯爵に、礼也はにっこり笑う。

「それは当然です。
梨央さんは今、誰よりも伯爵に甘えたくていらっしゃるのですから、お望みはすべて叶えて差し上げてください」

この思い遣りに満ちた言葉に、伯爵は目を細める。
「…礼也くんが梨央の傍にいてくれて本当に良かった…。
君が後見人を引き受けてくれたことを、心から感謝しているよ」

「勿体ないお言葉を恐縮です。
まだまだ若輩者ですが、精一杯務めさせていただきます」
「…ありがとう」
伯爵は真摯に答える礼也の手を握りしめた。

…そして、隣りの席で慎ましやかに二人の話を見守っている暁にやや茶目っ気のある笑みを送る。
「暁くん。
礼也くんは君にとってどんな兄様だね?
ぜひ、聴かせてくれ」

暁は長く濃い睫毛を瞬き、緊張した面持ちで…けれどはっきりと答えた。
「…はい。伯爵様。
兄は優しくて温かくて強くて…いつも僕を守ってくれます。
…僕が今ここにこうして何不自由なく豊かな生活ができているのはすべて兄のお陰です。
…僕は…兄さんが大好きです」

…最後の言葉は、小さな声ではあったが、この大層美しくもどこか薄幸な薫りのする艶めいた少年の切なる想いの告白のように、背後に控える月城には感じられた。




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