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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
…そうしてそれから、月城は暁と何故か二人きりで、庭園の直ぐ傍らにあるサンルームにいるのだ。

礼也が梨央の部屋を訪問している間、北白川伯爵が話し相手を務めようとした矢先、宮内庁からの火急の使いが来たのだった。

そこで伯爵が
『月城。
暁くんをサンルームにご案内して、お茶を差し上げなさい。
あそこは温かいし、庭園の眺めが一番良い。
…それに君なら良い話し相手にもなるだろう』
そう提案したからだ。
下僕の中で、大学に…しかも帝大に通っているのは月城だけだ。
伯爵は、細やかな心配りをするのだ。


…籐の長椅子に座り、庭園を静かに眺める暁の前に、月城は淹れたてのダージリンの茶器をそっと置いた。

暁がゆっくりと振り返る。
切長のアーモンド型の美しい瞳が、月城を見上げる。
「…ありがとうございます…。
…あの…」
名前を尋ねたそうな眼差しだった。

「…月城と申します。暁様」
「…つきしろ…さん…」

月城は小さく微笑んだ。
「月城とお呼びください。暁様。
私は使用人です」

暁は困ったように優しい形の眉を寄せた。
「…でも…。
僕はまだ十四歳だし、貴方は大人だし…」
…それに…
暁は寂しげに、その美しい眼元だけで微笑った。

「…僕は…縣男爵様の愛人の子どもなのです。
生まれながらの貴族の兄さんとは全く違います。
貴方にこんな風に恭しくもてなしていただくような立場ではありません…」





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