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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「…ヤクザたちに連れ去られそうになった時、突然僕の前に現れたのが兄でした。
兄は男たちを一瞬で蹴散らすと僕を抱き上げて、毅然と言ってくれました。
『この子は私の弟だ。
つまり、縣男爵家の息子だ。
その子に対して危害を加えることは私にしたも同然。
今後、私の弟に指一本でも触れたら、私はお前たちを決して許さない』
…と」

暁の白い頬が美しい薔薇色に紅潮していた。
その黒々とした瞳はしっとりと艶やかに潤んでいた。

「…あの時の兄さんの貌を…僕は一生忘れないでしょう…。
兄さんはまるで、僕が一度だけ読んだことがある外国のお伽話の美しい王子様のようでした…。
美しいだけでなく、強くて優しい…。
…それに、兄さんは僕がいままで嗅いだことがないような良い薫りがしました…。
夢心地になっている僕の貌を兄さんはゆっくり見つめて、優しく笑ってくれました…。
『…暁くんだね?
君の兄さんの礼也だ。
助けに来るのが遅くなってごめんね。
私は今まで君のことを全く知らなかった…。
知らなくて、探せなくてごめんね。
…でも、もう大丈夫だよ。
君は私の屋敷に来て、私と一緒に暮らすのだ。
もう怖いものは何もないよ。
安心して。
私が君を守るからね…』
…と。
…僕は…まるで赤ん坊のように泣き出しました。
嬉しかったのではありません。
信じられなかったからです。
…僕の人生に、こんな幸福が降り注ぐなんて…あり得ないと思っていたから…。
だから、夢だと思いました。
僕は、泣きながら祈りました。
…神様、夢なら醒めないで下さい。
どうしても醒めるなら、このまま僕を死なせて下さい。
…この、兄だという美しく強く優しいひとの腕の中で…」


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