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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「…暁様…」
その時、月城は自分でも不可思議な感情に囚われていた。
この稀有な美しさと艶めきを持つ少年に、こんな風に無条件に慕われる礼也に対して、嫉妬めいた生々しい感情を抱く自分がいたことに…だ。

礼也が妬ましいと思ったことはこれが初めてなのも、改めて意外であった。

縣礼也は梨央の後見人であり、事実上の婚約者である。
梨央は月城が生まれて初めて仕えた主人であり、憧れの存在だ。
その美しさ、愛らしさ、可憐さに、日々ときめきを覚えることは事実だ。
まだ七歳の幼女に。
…けれど、それが恋かと尋ねられたら…それは違うような気がするのだ。
憧憬と敬意と愛情とが混ざり合った複雑な感情であることは間違いない。
もちろん、梨央は今の月城にとって一番大切な存在である。

…だから、その梨央の事実上の婚約者である縣礼也は、月城にとって、好意を持つことは難しい存在の筈だ。
けれど月城は、礼也が好きだった。
尊敬し、信頼していた。
梨央に相応しい男性は礼也をおいて他にはいないだろうと、確信すらしていた。

縣礼也のことならば、月城は幾らでも諳んじられる。
…鉱業で財を成した縣男爵家の次期当主。
長身かつ容姿も雄々しく美しく、頭脳も明晰。
貴族だが、庶民的でもあり、縣鉱業のお膝元、筑豊では荒くれ者の炭鉱夫に混ざって車座で酒を飲む気概もある。
もちろんどんな仕事も幅広くこなせる。
趣味は多く教養は深く、誰にでも好かれる社交家。
お洒落で、女性の扱いも紳士的かつ優雅。
ゆえに縁談は降るように舞い込むらしい。
使用人に対しても丁寧で優しい振る舞いをするので、屋敷での人気は絶大だ。

『礼也くんは梨央の夫になるべくして生まれたような男だな』
親友の縣男爵と冗談混じりに呟くほど、北白川伯爵のお気に入りでもある。

そのことを、微かに羨ましく思うことはあれど、妬ましいと思ったことはただの一度もなかった。

…けれど、今確かに月城は思ったのだ。

暁にこんな風に情熱的に慕われる礼也が妬ましいと。
…いや、そうではない。

暁を救い出すのは、礼也でなく、自分ではなかったのかと…。
何故、自分が暁を救えなかったのかと…。

と、月城はあまりに唐突な自分の想いに慌てて首を振る。
…そんな馬鹿な…。
なぜ、そんなことを思うのだ。
この少年とは、今、親しく言葉を交わしたばかりだというのに…。
…なぜ。




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