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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「だから暁様は何も恥じ入る必要はございません」
ややむきになるように告げた。
暁は月城をまじまじと見つめ、小さく笑った。
「…月城さんは本当にお優しいですね…」
湿度の高い瞳で見つめられ、月城は訳もなくどきりとした。
…なぜ私は暁様にどきどきするんだ。
魂を奪われるように美しいとはいえ、少年だ。男性だ。
私は旦那様や狭霧さんのように男性へ恋愛感情は持たない。
持ったことはない。
…ない、筈だ…。
月城は動揺を隠すように、つかつかとブランコに近寄り鎖を掴む。
そうして、朗らかに声を掛けた。
「…暁様。お乗りになりませんか?」

「え?…僕が…ブランコに?」
暁は大きな瞳を見張る。
「…でも…これは梨央様のでしょう?」
「お客様はどなたでもお使いになられて良いのです」
「…僕、もう十四歳ですし…重さとか…」
「大丈夫です。
安全を確認するために執事の橘が乗りました。
頑丈さは保証済みです」
「え?あの…橘さんが?」
「ええ。
梨央様の為だと言って大真面目に」
如何にも厳格で規律に厳しそうな…しかも大男の執事の橘が厳めしい貌をしながらブランコを漕ぐ姿を想像したのか、暁はくすくす笑い出した。
…暁様の笑顔はいつまでも、いつまでも見ていたくなるな…。
欠点がないほどに美しいが、儚げで寂しげな貌が笑うとまるで花が咲き揃ったかのように明るく華やぐのだ…。
月城はうっとりと見つめる。

「…じゃあ…遠慮なく…」
白い頬を綺麗な桜色に染めながら、暁は頷いた。


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