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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
「…か、揶揄わないでくれ…」
和彦は俯いた。
狭霧も背は高いが、和彦は更に高い。
その長身の男が俯くと、まるで子どもが途方に暮れているようで、なんだか可愛い。
可愛がっている弟の千雪をちらりと思い出す。

「揶揄ってないさ。
見たままを言っただけ。
…けれど、今のままじゃ確かに魅力に欠けるな」
狭霧はわざと大袈裟に唸ってみせる。
「俺は見栄えが良い人間が好きなんだ。
連れ歩くと周りの人が振り返るような洗練された大人が…ね」
「…うん…。
泉くんには、そんなひとが似合うよね…」
寂しげに微笑む和彦を、ちらりと見遣る。
「…俺が好きなら、なってみろよ」
「…へ?」
鈍いなあ…と狭霧は心の中で舌打ちをする。

…だけど…

面白い企みが頭に閃き、ほくそ笑む。
そうして、仄かな艶と傲慢さだけの笑みを浮かべて言い放った。
それが如何に他人を魅了するものかは、百も承知だ。

「俺が好きなら、俺好みの男になってみろ。
…そうしたら、付き合ってやってもいい」

和彦は一重の優しげな瞳を見開き、信じられないように狭霧を見つめ続けていた。


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