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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「お陰様で元気にしておりました。
旦那様がまた巴里に戻られたので、暫くこちらには伺っておりませんでした。
馬は屋敷の馬丁が世話をしに参っておりましたので」

…本当は、梨央が月城の不在を寂しがり、なかなか屋敷を留守に出来なかったのだ。
伯爵が日本を離れたときはいつもそうだった。
暫く梨央は情緒が不安定になる。
一人になるのを極端に怖がる。
だから、月城が出かけるのを嫌がる。
何かと月城をそばに置きたがる。
そんな梨央を放ってはおけなかった。
梨央の寂しい貌や悲しい貌は見たくなかった。
…梨央にはいつも笑っていて欲しかったのだ。

「…僕は最近は毎週末、来ていました。
学院の馬術大会が近いので…」
「ああ…。暁様は星南学院の馬術部に入られたのですね。
もう大会に出られるのですか?」
「いいえ。僕はまだ駈歩をマスターしたばかりですから。
…大会セレモニーに出て欲しいと顧問の先生に言われたのです。
デモンストレーションで少し駈けるだけですけれど…」
恥ずかしそうに肩を竦める仕草が愛らしい。
「そうですか。それはおめでとうございます」
月城は思わず微笑んだ。
星南学院は華族学院と並び、富裕層の子弟が多く通う学校だ。
ゆえに馬術部の活動も盛んな上に、大会の成績も良い。
…暁は、その美貌からセレモニーの花を添える為に選ばれたのだろう。
馬術はライダーの見た目の美しさも重要なのだ。

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