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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
「おい」
「何?どうしたの?」
無邪気に尋ねられ、狭霧は美しい眉を思い切り顰めて見せる。
「人前でそういうこと言うな…て言っただろう」
和彦は不思議そうに眼を瞬かせる。
「どうして?
いいじゃないか。事実だから。
…狭霧は本当に美しい。
ミレイの絵の様だよ。
優美で華やかで繊細で…見るひとの眼を思わず奪ってしまう不思議なオーラがある」
英国のラファエロ前派の画家ジョン・エヴァレット・ミレイに信奉している和彦はよくこんな例えをする。
狭霧は肩を竦める。
「オフィーリアか?
…川に浮かぶハムレットの悲劇のお姫様…。
ごめんだね。
俺には振られた男のために気が触れて、尚且つ自殺するような律儀さなんか持ち合わせてないからな」

思いっきり嫌味で言ったのに、和彦はにこにこしたままだ。
「狭霧のそういうリアリストなところも大好きだ。
僕にない逞しさがすごく眩しいよ」

…何を言ってもこれだ。
本人相手に惚気てどうするんだ。
狭霧は諦めて、ため息をつく。
「…勝手に言ってろ…」

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