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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
小高い丘をいくつか越えると、谷の深い渓流に架かる吊り橋に着く。
気温はやや冷えてきたが、太陽はまだ煌めいている。
日没にはまだ時間がある。
…もう少し、遠乗りしても大丈夫だろう。
ジークフリートはいつも半日は野山を駆け回る駿馬だ。
短時間の遠乗りでは物足りないのだ。

「…ここ…渡るの…?」
こわごわと、暁が下を覗き込む。
細い吊り橋の下には、岩場の間を激しい水音を立てている川が流れている。
その距離は50メートルほどだろうか。
吊り橋の上に立つと一層、高さが際立つ。

「はい。
…怖いですか?」
ジークフリートは勇敢で賢い馬なので、細く不安定な吊り橋も難なく駆け抜ける。
決して失敗はしない。
…けれど、未経験の暁にはやはり怖いかもしれない。
さすがに無理かなと思い…

「…でしたら、他のコースを…」
と、言いかけると、
「ううん。大丈夫。
月城と一緒なら…怖くない」
暁はきっぱりと首を振り、月城を見上げた。
黒々とした瞳が、無邪気に微笑んでいた。

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