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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
キッチンの貯蔵庫から甘口のドイツワインを取り出し、ブリキのマグカップに注ぐ。
二つのうち、一つには角砂糖をふたつとシナモンとクローブを落とした。
それを手に居間に戻る。

…暁は赫々と燃え出した暖炉の前に座っていた。
カシミヤの白いセーターが、ほんのりと炎に照らされ薄朱色に染まっている。
濡れた黒髪がしっとりとした艶を放っていた。
美しい少年のシルエットが、洋燈の灯りにふわりと浮き上がる。

「お寒くありませんか?」
声を掛けると、暁は首を振りにっこり笑った。
「大丈夫。暖かくなってきたよ」
月城はほっとする。
暖炉の薪が爆ぜるぱちぱちとした音と共に、空気が次第に柔らかく温まってゆく。

「良かったです。
…今、ホットワインを作ります。
本当は暁様はまだお酒はお召し上がりになれないのですが、こちらにはお酒のストックしかございませんので」
手早く暖炉の薪の上に鉄の五徳を据え、その上にトレーを置きワインの入ったマグカップを載せる。

「大丈夫だよ。
兄さんもワインだけは少し晩餐の時に飲ませてくれる。
…紳士の嗜みだから慣れた方が良いからね…て」
暁の嬉しそうな弾むような声に、月城は眼を見張る。

…本当に、礼也様がお好きなんだな…。



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