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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
狭霧は甘く巧みな口づけを与えながら、囁く。
「…姉小路男爵夫妻には気をつけた方がいい。
二人とも君に眼を付けている。
…それから、大久保公爵夫人の誘いには上手く躱すこと。
公爵は大変嫉妬深い。
しかも酒乱だ。
何回も夫人の浮気相手と刃傷沙汰を起こしている。
…トラブルにならないよう、充分に気をつけ…」

月城がやや苛立ったように狭霧を組み敷いた。
「…もう、黙ってくれませんか?」

狭霧が可笑しそうに笑った。
「…なんだか頼もしいな…。
君、リードしてくれるの?」

月城は、狭霧の白くほっそりとした手首を枕に押さえつけ、
噛み付くような口づけを与えた。

「…経験がないって決めつけないでください」
お互いの睫毛の触れ合う距離で、見つめ合う。
「…あんなこと、なんでもないです」
…かつて故郷の能登で、勤め先の旅館の女将から色仕掛けで迫られた。
蒸発した父親の借金を肩代わりしてやると言われ、心を殺してその女と寝た。
後悔はしていない。
お陰で、母親は楽な仕事に移れた。
弟や妹にも服や靴を新調してやれた。
…けれど、女との性交に拭いきれない嫌悪感を抱いたのも確かだ。
今も、ずっと。

狭霧の琥珀色の美しい瞳がしっとりと潤み、ふわりと微笑んだ。

「…女はあるの?それは失礼したね。
…でも、男はないでしょう?」

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