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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
翌朝、巴里に戻る伯爵を見送る為に、屋敷中の使用人たちが玄関前に整列した。

狭霧は黒塗りのロールスロイスのトランクに積み込まれるスーツケースの数のチェックをしている。
…従者のきちりとした端正なスーツ姿は実に禁欲的で、昨晩の淫らな痴態はまるで夢だったのではないかと思わせるほどだ。
近くに居る若いメイドたちは我先に狭霧の手伝いをしようと彼に声をかけていた。
メイドたちは狭霧ににっこりと笑い返され、小さく嬌声を上げた。
厳格な家政婦の弥生が、じろりと睨む。

伯爵が梨央との別れの長い挨拶を終え、車に乗り込んだ。
狭霧がそのドアを静かに閉める。
そうして自分も乗り込む前に、ふと月城を振り返った。

狭霧は月城を見つめ、その魅惑的な瞳に笑みを浮かべ、茶目っ気のある仕草で敬礼してみせた。

「…素敵な夜をありがとう」
その形の良い薄紅色の口唇が、そう囁いた。

呆気にとられた瞬間、ロールスロイスは滑らかに車寄せを出発し、門扉へと続く道を走り出した。

「…お父様…いっちゃったわ…」
別れの悲しさからしくしく泣き出した梨央を、恭しく抱き上げる。
「…梨央様。
旦那様はまた必ずお帰りになられます」
…狭霧さんも、一緒に。
そっと心の内で呟く。

月城はいつまでも二人を載せた車を、見送り続けたのだった。









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