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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「…え?」
意外な言葉に、思わず暁を振り返る。

暁は長く濃い睫毛を伏せ、白い手に包まれたホットワインのマグカップに視線を落としながら言葉を続けた。
「…兄さんは梨央様の後見人なんだよね。
海外暮らしの伯爵様の代わりに、梨央様が安心してお過ごしになられるように、ご相談相手に選ばれた…と。
…それから、まだ正式ではないけれどお二人の婚約は両家で決まっていて、梨央様が成人されたらご結婚されると…。
それは公然のことのように噂をよく聴くから…。
…ねえ、月城。
やっぱり…決定していることなのかな?
…お二人のご結婚話は…」

月城は返答に詰まった。
…梨央と縣礼也がゆくゆくは結婚するであろうこと。
これは、彼らを知る上流階級の人々にとっては周知の事柄であった。
もちろん、北白川家に勤める使用人たちにとっても。
梨央がまだ幼いことから、婚約式などはしてはいない。
梨央が然るべき歳になったあかつきには、正式に婚約することは、両家が了承していることであった。

…もちろん、リベラルな伯爵のことだ。
年頃になった梨央にきちんと意思を確認し、礼也との結婚を無理強いするようなことはないだろう。

…けれど…。
月城は思う。
年頃になった梨央が礼也を拒むことなど、まず有り得ないであろう…と。

梨央だけではない。
若き令嬢が、もし仮に縣礼也に求愛されたとしたら、嫌がる者など一人もいないであろうことは火を見るよりも明らかであった。
寧ろ、礼也に熱い想いを寄せる令嬢たちは、星の数ほどいるのだから…。

…暁は、きっとそれらのことをすべて分かっているのだろう。
礼也のことは、誰よりも知っているのだから。
それにも関わらず、月城に尋ねるということは、別の可能性を探りたいのかも知れない。

「…そうですね…」
月城は慎重に答える。

「…恐らくは…いずれはそのようになられるのではないかと拝察いたします」

…暁が傷つかないと良いな…と願いながら…。
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