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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「さあ、暁。今日は何をしたい?
どこか行きたいところはあるかな?
どこにでも連れて行ってあげよう」

縣家の軽井沢・離山の別荘。
爽やかな薄荷の香りがする風がふわりと入る朝食室で、薄いトーストに器用にバターを塗りながら、礼也はにこやかに尋ねた。

…そう言われても、胸が一杯で言葉に詰まる。

大好きな兄と二人きりでいられることは、実は初めてだ。
いつも多忙な兄とはなかなかゆっくりと過ごすことは出来ない。
休日は休日で、社交に忙しい。
縣家の当主は来年には兄に代替わりするので、その為の挨拶や顔繋ぎなど…休日の方が多忙なのであった。

「お前とゆっくり過ごしたくても、なかなか出来なかったからね。
炭鉱の方も一段落着いた。
挨拶回りも粗方終わった。
…この1週間の夏休みは、二人だけで過ごそう」

夢のような話に、暁はおずおずと尋ねる。
「…お茶会やパーティーにも行かれないのですか?」
「行かないよ。招待はすべて断った」
「…本当に、僕と二人きり…?」

礼也は人好きのする朗らかで端正な目元で優しく笑った。
「そうだよ。暁。
お前と二人きりだ。
ずっと一緒に過ごそう」

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