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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
…だから、わざと暢気な声を上げてみる。
「ふうん。
…お貴族様は真面目なんだな。
別にいいじゃないか。男が好きだって。
世の中の半分は男なんだぜ。
魅力的なひとがすべて女とは限らない。
別に変なことでも恥ずかしいことでもないさ」 

和彦が眩しげに瞬きする。
「…泉くん…」
…君は強いね…と、羨望の眼差しで微笑まれる。

「俺はいわゆる両刀だけど、恥じたことはないし、隠したこともないよ。
…まあ、うちの場合、俺は最初からはみ出し者だからね。
高等学校の頃から何回か警察にもご厄介になったし。
いまだに大学には通わないわ夜遊びするわ…。
男が好きだろうとなんだろうと気にも留めないんだろうなあ。
父親は俺の放蕩ぶりが我慢ならないのさ。
いずれ自分の店を潰すんじゃないかってヒヤヒヤしているんだろう。
父親は金と世間体のことしか興味ないのさ」

「…商売をなさっているなら、仕方ないよ。
会社の社長は従業員の生活も保証しないといけないし。
…お母様は?お優しい?」

…継母…さな絵のことを考えると、少し憂鬱になる。
それは、さな絵が嫌なのではなく、さな絵に優しくできない自分が嫌だからだ。

「優しすぎるくらい優しいさ。
こっちが居た堪れなくなるくらいに気を遣ってくる。
…あのひとは…実母じゃないんだ。親父の後妻さ。
良い人だけれど…やっぱり俺の母親じゃない。
どうしても好きにはなれない。
なついてもやれない。
これはもう仕方ないさ。
…けれど、その人と親父の間に生まれた弟はめちゃくちゃ可愛い。
貌が可愛い。性格も可愛い。俺のことを慕ってくれるしね」
…千雪…ユキとは半分血が繋がっているからだろうか。
実の父親よりずっと好きなくらいだ。
…いや、見た目が可愛いからだな。
俺は面食いだから。
自分でも可笑しくなる。

「…へえ…。それは良かったね」
和彦がほっとしたように微笑む。
…こいつ、お人好しだな…と思う。

「うん。
弟…ユキは頭もいいし人当たりもいい。素直な優等生なんだ。
だから、店はユキが継げばいい。
あの人は気にするだろうけど、俺は家業に全く興味ないし。
ユキなら店を潰すことはないだろう。
万々歳じゃないか」

…ま、俺の話はそんなとこさ。
そう言って、腰掛けていた出窓から軽やかに飛び降りる。

…そうして、狭霧は和彦の前に対峙するように佇んだ。






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