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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「…トロイメライがいいな…」
小さな声で告げると、礼也がにっこりと笑った。

「トロイメライか…。
暁はトロイメライが大好きだね」
「…だって、あの時兄さんのピアノを生まれて初めて聴いたし…生まれて初めて聴いたすごく綺麗な音楽だったから…」

…シューマンのトロイメライには、忘れられない思い出がある。
暁が礼也に引き取られて暫くしたある夜のこと。
暁は恐ろしい悪夢に魘されていた。
…やくざ者に連れ去られ、蹂躙される夢だ。
泣きながら遮二無二もがいていた暁を抱き起こしたのは、礼也の温かな力強い腕だった。
…濃紺のガウンを羽織った礼也が、心配そうな眼差しで暁を覗き込んでいた。

暁の悲鳴を聞いて、寝室から駆けつけて来たのだろう。

「…にい…さん…」
暁は泣きながら、逞しい兄の胸に縋り付く。

「どうした?暁。
怖い夢でも見たのか?」
悪い夢から醒ますように、礼也は自分の膝の上に暁を優しく抱き上げ、背中を摩る。

「…あの男たちに…襲われそうになった夢…」
口にするだけで悪夢が甦り、暁は身体を震わせた。
その華奢な身体を、礼也がそっと抱きしめる。

「…大丈夫だ。暁。
もうお前を怖がらせるものは何もない。
私がお前を守るからね。
必ず守る。
だから、何も怖くないよ。
安心しなさい」


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