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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
和彦の母親が帰ったのち、さな絵は一人悩み考えた。
…狭霧にとって一番良い道は何なのか…と。

狭霧は生さぬ仲の義理の息子だ。
この家に嫁いだとき、狭霧と対面し、輝くようなあまりの美貌に目を奪われたことを昨日のことのように覚えている。
この美しい少年の母親になるのだ…。
どきどきするような高揚した感情が押し寄せてきた。
できるだけ、狭霧と仲良くなり、良い母親になろうと決意した。
自分なりに努力もした。

…けれど、狭霧は自分にはとうとう懐いてはくれなかった。
反抗されたり、乱暴な口を聞かれたことは一度もない。
いわゆるよそよそしい態度を崩さないのだ。
それを寂しく思うことはある。
けれど、今はもう好かれることは諦めている。
…それでもいいわ…。
だって…。

なぜなら、狭霧は自分が産んだ異母兄弟の千雪を大層可愛がってくれている。
自分には冷ややかだが、千雪には産まれた時から存分に愛情を示し、与えてくれた。
お陰で千雪は狭霧が大好きだ。
美しく魅力的な狭霧に心酔し、憧れている。
中学生になった今も『兄さん、兄さん』と今だに懐き、慕っているほどだ。

今回の事件で誰よりも心を痛めて悲しんでいるのは千雪だった。
『兄さんが可哀想です。
男同士で愛し合ったっていいじゃないですか。
兄さんの人生でしょう。
いきなり勘当して上海に送るなんて…お父さんは横暴すぎますよ』
と、父親を詰った。
普段、大人しく従順な千雪とは思えない激しい言葉だった。
その余りの剣幕に、父親はむっと押し黙ってしまったほどだ。

今、離れに軟禁されている狭霧のもとに自ら食事を運び、話し相手になっているのは千雪だった。

…千雪に相談してみよう…。
さな絵はそう決意し、千雪が居る離れの狭霧の部屋に向かったのだ。


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