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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
千雪を狭霧の部屋からそっと呼び出し、さな絵は先ほどの山科夫人の提案を話した。

『いいではないですか。お母さん。
お二人は外国に行かれて自由に生きるべきです。
…そりゃ…巴里に行かれたらなかなか兄さんには会えないから寂しくなるけれど…。
でも、兄さんが不本意のまま上海に送られるより、断然良いです。
兄さんにも今すぐ話すべきですよ』
千雪は可憐な眼を輝かせて賛成した。

さな絵はよくよく言葉を選んで話し出した。
『…そうね…。
無理矢理に上海に行かせてしまうのは私も反対よ。
でもね、旦那様の弟さんはあちらで手広く金物屋を経営されているのですって。
使用人が何十人もいる広いお屋敷も建てられたそうなの。
お子様がいらっしゃらなくて、とてもお優しい方らしくてね。
今回の事件を聞いて、「狭霧さんをぜひ引き取りたい。養子にしてもいい」と申し出てくださったらしいの。
昔から狭霧さんを気にかけていらしたみたい。
…だから旦那様もお任せしてもいいと思われたのだとは思うけれど…』
…狭霧の父親、さな絵の夫は確かに厳格で頑固なところはあるが、決して冷たい人間ではない。
早くに亡くなった日本橋きっての美貌を謳われていたという狭霧の母を大層愛していたようで、そのために再婚が遅れたとも言われている。
狭霧のことも心配が故に厳しく当たり、本人との仲も拗れてしまったのだ。
本当は母親譲りの美しい息子を愛しているのだ。
けれど、江戸から続く大店の主人として店を傾かせる訳にはいかないのだ。
彼には店と家を守るという責任があるからだ。
さな絵は側でそれを見守ってきて、痛いほど痛感していた。
だから、真っ向から反対はできないのだった。


『…どちらにも行きませんよ』
襖が音もなく開き、不意を突くように狭霧が現れた。

『狭霧さん…!』
『兄さん!』

狭霧は相変わらずの華やかな美貌に何の感情も表さず、淡々と告げた。

『俺はどちらにも行きません。巴里にも上海にも。
…けれどこの家を出て、家族との縁を切ります。
二度とこの家の敷居は跨ぎません。
どうぞ安心してください。さな絵さん』



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