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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
『今まで散々ご迷惑をおかけしてすみませんでした。
このままここにいたら、千雪の将来にも拘る…。
だからさな絵さんは上海に行って欲しいのでしょうが、俺は父さんの言いなりになる気はない。
自分の道は自分で決めます』
怒ったふうもなく淡々と冷ややかにさな絵を見ながら告げられる。
…狭霧は亀甲柄の白大島紬の着物をさらりと着こなし、物憂げに腕を組んでいた。
実家にいるときは家業の品でもある着物姿が多いのだ。
上質な真珠のような肌をした端麗な美貌の狭霧が身に纏うと、絵巻物めいた美しさを醸し出し、眩しいほどだ。
『そんな…狭霧さん…私は…』
さな絵は、自分は決してそんなふうには思ってはいない。むしろ狭霧の幸せを一番に考えているのだ。
…そう言いたかったのに、言葉が出ない。
この圧倒的に美しい義理の息子の前に立つと、さな絵はいつも劣等感じみた感情に支配され、心の内を正直に打ち明けることができないのだった。
『そんなのだめだよ!兄さん!
兄さんと家族の縁を切るなんて絶対に嫌だ!
嫌だよ!』
子どものように泣きながら、千雪は狭霧に取り縋った。
『行かないでよ、兄さん!ずっとここにいてよ!
兄さんがいなくなるの、やっぱり嫌だよ!
僕からお父さんにお願いするよ!兄さんを今まで通りここで暮らさせてくださいって。
だから、ここにいてよ。
どこにも行かないでよ…!』
千雪に縋られて、狭霧は初めて苦しげに美しい眉を歪めた。
そうして、千雪の白い頬を優しく撫でながら告げる。
『…千雪…。ありがとう。
…こんな不肖の兄貴で、本当にごめん。
俺はほかのことはどうでもいいけれど、お前のことだけが気掛かりだ。
お前に厄災が降りかからないように、それだけを考えている』
千雪は必死に首を振り、尚も狭霧に抱き付く。
『そんなの!いいよ!兄さんがいなくなる方が嫌だ!
僕…僕は…兄さんが…』
このままここにいたら、千雪の将来にも拘る…。
だからさな絵さんは上海に行って欲しいのでしょうが、俺は父さんの言いなりになる気はない。
自分の道は自分で決めます』
怒ったふうもなく淡々と冷ややかにさな絵を見ながら告げられる。
…狭霧は亀甲柄の白大島紬の着物をさらりと着こなし、物憂げに腕を組んでいた。
実家にいるときは家業の品でもある着物姿が多いのだ。
上質な真珠のような肌をした端麗な美貌の狭霧が身に纏うと、絵巻物めいた美しさを醸し出し、眩しいほどだ。
『そんな…狭霧さん…私は…』
さな絵は、自分は決してそんなふうには思ってはいない。むしろ狭霧の幸せを一番に考えているのだ。
…そう言いたかったのに、言葉が出ない。
この圧倒的に美しい義理の息子の前に立つと、さな絵はいつも劣等感じみた感情に支配され、心の内を正直に打ち明けることができないのだった。
『そんなのだめだよ!兄さん!
兄さんと家族の縁を切るなんて絶対に嫌だ!
嫌だよ!』
子どものように泣きながら、千雪は狭霧に取り縋った。
『行かないでよ、兄さん!ずっとここにいてよ!
兄さんがいなくなるの、やっぱり嫌だよ!
僕からお父さんにお願いするよ!兄さんを今まで通りここで暮らさせてくださいって。
だから、ここにいてよ。
どこにも行かないでよ…!』
千雪に縋られて、狭霧は初めて苦しげに美しい眉を歪めた。
そうして、千雪の白い頬を優しく撫でながら告げる。
『…千雪…。ありがとう。
…こんな不肖の兄貴で、本当にごめん。
俺はほかのことはどうでもいいけれど、お前のことだけが気掛かりだ。
お前に厄災が降りかからないように、それだけを考えている』
千雪は必死に首を振り、尚も狭霧に抱き付く。
『そんなの!いいよ!兄さんがいなくなる方が嫌だ!
僕…僕は…兄さんが…』