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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
千雪のあまりの取り乱しぶりに、さな絵は唖然とする。
この様子は…まるで恋をしているようだ。
…千雪はもしや狭霧のことを別の意味で好きなのではないだろうかとの疑惑すら湧いた。

…いや、千雪は大好きな兄が自分の元からいなくなり、どこかに行ってしまうのが悲しくて仕方ないのだ。
昔から狭霧べったりな千雪だったから、混乱しているのだ。
さな絵は自分に言い聞かせる。

『千雪、落ち着いて…。
狭霧さんを困らせないで差し上げて…』
やんわりと口を挟むと、千雪ははっと我に帰ったように少女めいた愛らしい瞳を瞬いた。

『…ごめんなさい…兄さん…』
『いいさ。千雪は俺の大事な可愛い弟だ。
お前が居たから、俺は今までここに居たようなものだからな』
いつものように甘やかすように千雪の頬を軽くつねる。

千雪はやや照れたような表情のまま、心配気に尋ねた。
『…でも兄さん…。
どこに行かれるつもりなんですか…?』
『…深圳先生の軽井沢のアトリエに来ないかって誘われているんだ。
モデル兼助手の仕事があるらしい。
…こんな醜聞が出ても、先生は気にしないってさ。
変わった爺さんだよな。
…まあ、だからひとまずそこに行って、これからのことを考えようかと…』


…と、不意に…
『狭霧!駄目だ!軽井沢に行っては駄目だ!』
『お、お待ち下さい…!山科様…!』

さな絵は声のする方を振り返り、息を呑んだ。
母家から繋がる渡橋を駆けてくるのは…山科家の御曹司、山科和彦だ。
そしてそれを慌てて追いかけるのは、店の大番頭だった。


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