この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
『和彦…!お前、どうやって…』
驚く狭霧の元に駆け寄ると、和彦はそのままなりふり構わず、狭霧を抱きしめた。
傍らの千雪が息を呑んだ。
…山科和彦にはかつて一度、この家まで狭霧を迎えに来た時に挨拶したことがある。
すらりと背の高く如何にも育ちの良い知的な整った貌や、品の良い言葉遣い、立居振る舞いに、さすが子爵様の御曹司は違うと感心したものだ。
…あの頃はまさか、狭霧とただならぬ関係とはつゆ知らず、のんびりとお茶やお菓子を勧めたりしたものだった。
しかし今の和彦は面窶れし、鬼気迫る形相をしていて凄みがあった。
それがどこか暗い色香を醸し出しているようにも見えた。
…これが恋窶れというものなのか…と、さな絵は思わず和彦の貌を見つめた。
強く狭霧を抱きしめたまま、和彦が叫んだ。
『行くな…!軽井沢なんかに行くな…!
深圳先生は狭霧にずっと色目を使っていた。
絶対に君によからぬ感情を抱いている。間違いない。
だから駄目だ。
…そんなことより…狭霧、頼む。
僕と一緒に巴里に行ってくれ。
お母様も賛成してくれた。内密に渡欧費用も用立ててくれた。
あちらの美術学校の費用もだ。
…こちらの母上も、狭霧のためならきっと協力して下さるはずだ。
ねえ、狭霧。二人で巴里に行って、絵の勉強をしよう。
二人だけで生きていこう。
君のためならなんでもする。
僕は君が居ないと、生きてはいけないんだ。
頼む。一生のお願いだ』
狭霧は苦しげに、和彦を見上げた。
それは、さな絵が見たことがないほどに、苦渋に満ちた表情だった。
狭霧の美しい口唇が意を決したように開かれる。
『…和彦…。
俺はやはりお前とは別れた方がいいと思う。
俺とお前では身分や立場が違う。
お前は将来、子爵家を継ぐ人間だ。
名門の血筋をお前で途絶えさせるわけにはいかないだろう。
…これ以上、俺には関わらない方がいい。
もう、別れよう。和彦』
驚く狭霧の元に駆け寄ると、和彦はそのままなりふり構わず、狭霧を抱きしめた。
傍らの千雪が息を呑んだ。
…山科和彦にはかつて一度、この家まで狭霧を迎えに来た時に挨拶したことがある。
すらりと背の高く如何にも育ちの良い知的な整った貌や、品の良い言葉遣い、立居振る舞いに、さすが子爵様の御曹司は違うと感心したものだ。
…あの頃はまさか、狭霧とただならぬ関係とはつゆ知らず、のんびりとお茶やお菓子を勧めたりしたものだった。
しかし今の和彦は面窶れし、鬼気迫る形相をしていて凄みがあった。
それがどこか暗い色香を醸し出しているようにも見えた。
…これが恋窶れというものなのか…と、さな絵は思わず和彦の貌を見つめた。
強く狭霧を抱きしめたまま、和彦が叫んだ。
『行くな…!軽井沢なんかに行くな…!
深圳先生は狭霧にずっと色目を使っていた。
絶対に君によからぬ感情を抱いている。間違いない。
だから駄目だ。
…そんなことより…狭霧、頼む。
僕と一緒に巴里に行ってくれ。
お母様も賛成してくれた。内密に渡欧費用も用立ててくれた。
あちらの美術学校の費用もだ。
…こちらの母上も、狭霧のためならきっと協力して下さるはずだ。
ねえ、狭霧。二人で巴里に行って、絵の勉強をしよう。
二人だけで生きていこう。
君のためならなんでもする。
僕は君が居ないと、生きてはいけないんだ。
頼む。一生のお願いだ』
狭霧は苦しげに、和彦を見上げた。
それは、さな絵が見たことがないほどに、苦渋に満ちた表情だった。
狭霧の美しい口唇が意を決したように開かれる。
『…和彦…。
俺はやはりお前とは別れた方がいいと思う。
俺とお前では身分や立場が違う。
お前は将来、子爵家を継ぐ人間だ。
名門の血筋をお前で途絶えさせるわけにはいかないだろう。
…これ以上、俺には関わらない方がいい。
もう、別れよう。和彦』