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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
仏蘭西行きの船の手配は、店を懇意にしてくれている縣商会の大番頭の玉木が口を聴いてくれた。
もちろん狭霧や和彦の関係は伏せて、単なる友人同士の遊学ということにした。
どこで露見するかわからないからだ。

縣商会は縣男爵の子息・礼也が近年社長に就任したばかりの新しい貿易会社である。
そこの大番頭の玉木の前職は、九州筑豊の炭坑夫だということだ。
縣鉱業という男爵家が経営する炭鉱に勤めていたのだった。
若い頃はかなりの荒くれ者だったらしいが、その度胸と勘の良さと面倒見の良さを買われ、礼也の用心棒兼教育係として東京にやってきた。
番頭となってからは、若き社長を支え、盛り立てることに心血を注いでいた。

玉木は
『若旦那様は見栄えはええ、頭はええ、性格はええ…。
いざとなると誰よりも強く胆力もおありになる。
わしゃあ、あげに素晴らしいおひとを他に知らんけんのう』
と、嬉しそうに褒めちぎるのが常だった。

今回の船の件も…
『ちょうどウチの若旦那様がその船にお乗りになるったい。
見聞を深められるために欧州をお一人で回られるとよ。
すごかろ?
若旦那様は帝大出のインテリやから外国語もペラペラなんじゃ。
ほやから儂からよおくお頼みしちょきますけんの。
…礼也様は話がわかる優しいお人やけ、色々と力になってくれるやろ。
女将さん、なんも心配せんと、どんと構えちょきんしゃい』
と、さな絵に胸を叩いて見せたのだった。

…海千山千の玉木は、どうやらすべてお見通しのようだった。



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