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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
…夜の海が、こんなにも暗いとは知らなかった…。
空と海との境が分からぬほどに、どこまでも…さながらこの世の果てまでも漆黒の闇が広がっているかのように見える。
黒曜石の如くの海原には、貴婦人のレースのような細かな白い波が、船の縁に纏わりつくのみだ。
狭霧は甲板から、次第に小さくなる横浜港の儚げな灯りを見つめていた。

…千雪は…まだこの船を見送っているのだろうか…。

別れ際、大きな愛らしい瞳に涙をいっぱい溜めて、狭霧を見つめていた。
『…兄さん…。
僕は兄さんの味方だよ。
これからもずっとずっと…。
だから、いつか必ず帰ってきてね。
このまま永遠にさよならなんて、絶対に嫌だよ…!』
泣きながら抱きついてきた千雪が愛おしくて、狭霧は強く抱きしめた。
『…ユキ…。ありがとう…。
俺があの家に今まで居られたのはお前のおかげだ。
…ユキは本当に可愛くて、お前が大好きだったよ』
『…兄さん…』
少女のように可憐な貌に薄っすらと朱が射す。
『俺によく懐いてくれて嬉しかった…。
…俺は良い兄貴じゃなかったのに…ありがとうな…』
『そんなこと…そんなことないよ…。
兄さんは何もかも美しくて様子が良くて…何か…ちょっと僕たちとは別の世界にいるみたいな不思議な雰囲気を持っていたけれど…。
でも僕にいつも優しくしてくれて…だから…僕は…』
…千雪の思い詰めた口唇が、ある言葉を囁く前に、狭霧はそっと触れるだけのキスを心を込めて送った。

『…あ…』

千雪の黒眼勝ちの瞳が信じられないように見開かれ…白い頬が薄桃色に染まった。
狭霧は優しくその頬に触れる。
『…ユキ、あの家を頼む。
店はお前が継いで…お父さんを助けてやってくれ…』

…それから…
と、傍らで息を殺して佇んでいるさな絵を見遣る。
…このひとは、こんなにか細く頼りなげだっただろうか…。
真っ直ぐに見つめるのは初めてだった。

『…お母さんを大切にしてやってくれ…』

さな絵の千雪に良く似た愛らしい瞳が驚きの余り大きく見開かれた。
狭霧は深々と頭を下げた。

『…色々とありがとうございました。
用立てて下さったお金は、いつか必ずお返します。
…お母さん。どうかお元気で…』

さな絵が泣き笑いのように表情を崩した。
『…狭霧…さん…。
…お母さん…て…言ってくださるの…』

さな絵は子どものように泣き崩れた。



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