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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
『冷静になれ。和彦。
お母さんはお前を心配しているんだよ。
…そりゃ、男と二人外国に行ってしまったんだ。
不安にもなるさ。
…日本での俺の評判は頗る悪いしな』
放蕩三昧の毎日だった。
男女問わず、恋愛沙汰も起こしていた。
…きっと俺の素行は調査済みだろうしな。
狭霧は肩を竦めた。

『いや、僕は狭霧を悪く言う人は例え親でも許せない。
お母様やお父様には申し訳ないけれど、僕はもう居ないと思って欲しいんだ』
『…和彦…』
何が言おうとする狭霧を和彦は柔らかく抱きしめた。
『…いいんだよ。僕には狭霧さえいてくれたら…。
ほかには何も要らない。
…本当だよ…』
『…和彦…』
…和彦は相変わらず欲がない。
というか、彼は自分にしか執着していない。
その純粋さが危うく感じることがある。
そして、そんな風に和彦をしてしまった責任を、最近狭霧は微かに感じ始めていた。

『…もっと色々欲しがれ。
俺だけじゃなく。
地位も富も名声も。
お前は賢いし才能がある。
俺だけでいいなんて、言うな』
強く抱きしめ返し、告げる。
…そうじゃないと、俺はこの先、本当にお前を幸せに出来るのか不安になる。
そう心の中で呟くのは、ひとりの人間を幸せにするなど、傲慢すぎると分かっているからだ。

『…そんなものは要らない。
要るのは狭霧だけだ。
…だから…』
少し切なそうに狭霧の眼を覗き込む。

『…いつか、愛している…て言ってくれる?』
狭霧は吹き出した。
…そういえば、まだ言っていなかった。
わざわざ口に出すには照れくさくて…。

…だから、つい勿体付けるように長い睫毛越し、蠱惑的に和彦を見遣る。

『…そのうち…気が向いたらな』

それでも和彦は嬉しそうに笑った。
『いつかね。約束だよ』
『ああ、分かった。いつかね』
焦らす代わりに、自分からキスしてやる。

…今じゃなくていい。
そうだ。
来週のクリスマスに言ってやろう。
特別なときのほうがいい。
その方が、和彦はきっと喜ぶだろう。
…クリスマスは、もうすぐだ。

狭霧は自分の考えに満足して、心の中で微笑んだ。




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