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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
『…なんだか味が決まらないなあ…』
さっきから狭霧は狭いキッチンでビーフシチューの味付けと格闘していた。
…下宿の女将に聞いた通りのレシピで作ったのに…。
狭霧は首を傾げる。
…最初に玉葱を炒める時間が短かったのかな?

ビーフシチューは和彦の大好物だ。
いつも料理はすべて和彦が作ってくれるのだが、今夜は狭霧がディナーを作って驚かせてやろうと思ったのだ。
牛のすね肉は、近所のマルシェで一番良く売れている肉屋の極上のやつを仕入れた。
ブーケガルニの束も忘れずに買った。
煮込み用の赤ワインはケチってはいけないと女将に言われたので、ブルゴーニュ産の上質な赤を惜しみなく入れた。
『あ、そうだ。隠し味に牛酪とプラムを入れろって言われてたんだ』
牛酪の塊とプラムを無造作に投入し、ことこと煮込む。
しばらくするとソースが良い色にとろりとしてきた。
スプーンで味見をする。

『…うん。美味しい』
なかなかの味だ。
初めてにしては大したものじゃないか。
狭霧はにんまりする。

…真新しいクロスを敷いた小さなテーブルの上には、焼き立てのバケット、マッシュルームとエンダイブのサラダ。
…中央にどんと飾られているブッシュドノエルは今日、モデルをした画家からの贈り物だ。
…ヒヒ爺いかと思ったら、人の良いじいさんだったな。
狭霧のことを
『ma déesse!(私の女神)』と連呼して興奮していたのには閉口したが…。

『…ま、いいや。ダロワイユのケーキをくれたし』
狭霧はにこにこしながら、椅子に座る。

…早く帰ってこないかな…。
古びた柱時計を見て少しそわそわする。
クローゼットに隠してある新品のキャンバスや絵の具、絵筆…。
和彦、喜んでくれるかな…。

ケーキに蝋燭を立てながら、にやにやする。
…プレゼントを渡して、シャンパンで乾杯したら…

窓の外に眼を遣る。
…白い花弁のような雪がふわりと舞い降りてきた…。

…愛している…て、言ってやるんだ…。

うっとりと、夜空から舞い降りる白い天使を見つめていると、喧騒しく扉が叩かれた。
『サギリ!いるか⁈』

…そこに現れたのは、和彦がアルバイトしている店のギャルソンのジャンだった。
ジャンは顔面蒼白だ。がたがたと震えてさえいる。
『ジャン?どうした?』

ジャンは荒く息を吐き、掠れた声で叫んだ。
『…カズヒコが…カズヒコが刺された!』


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