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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
『…和彦が…?…なんだって?』
…ジャンが言っている意味が分からない。
何を言っているんだ?タチの悪い冗談じゃないのか?
だって、今日はクリスマスだぞ。
イブの夜に。そんな馬鹿な…。

『…カ、カズヒコが…店の客に刺された…!
す、すごい出血してて…。
タチの悪い酔っ払いたちがいざこざを起こしたんだよ。
そのうちの一人がナイフを取り出して…和彦はそれを止めようとして…揉みあっているうちに…。
…そ、そんなことより…早く…早くサギリ、来てくれ…!
カズヒコが…カズヒコがお前を呼んでいる…!』

いきなり頭を殴られたような衝撃が走る。
狭霧はジャンを突き飛ばすように部屋を出て、階段を駆け降りた。

…石畳みの道は、雪が積もり始めていた。
狭霧は何も考えずに、ひたすら走り抜けた。

…和彦…和彦…!

息が止まりそうなくらいに苦しい。
こんなに苦しい思いは生まれて初めてだ。
今にも心臓が止まりそうだ。
けれど、この脚を止めるわけにはいかない。
一刻も早く、和彦のもとに行かなくては…。
雪が降り積もる石畳は、アイスリンクのようで、狭霧は何度も転び、また立ち上がり、走り出す。

…和彦…和彦…!
頭に浮かぶのは、その名前と和彦の優しい笑顔だけだ。

…待ってくれ…頼む…待ってくれ…!
誰に懇願しているのか。
和彦なのか、それとも神なのか。
ただ、その言葉を繰り返し、狭霧はひたすら走り続けた。




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