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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
店の外まで人集りに溢れたバールに飛び込むと、床一面血の海だった。
その血溜まりの中に、和彦は横たわっていた。
眼を閉じているその貌は紙よりも白く、まるで生気がない。
…とても現実とは思えない光景だ。
夢だ…。
夢なら悪夢だ。
早く、早く醒めてくれ。
願いながら和彦に駆け寄る。
『和彦…!和彦…!』
必死で声を掛ける。
和彦の傍には初老の男が和彦の脈を取っていた。
見覚えがあるその貌は、近くの町医者だ。
何の処置もしていないじゃないか!
焦れた思いが爆発する。
『早く病院に運んでくれ!』
狭霧は怒鳴る。
『今、動かせば更に大出血する。
血圧も下がって危機的状況だ』
医師は力無く首を振った。
その表情から、和彦の容態が如何に絶望的かが見て取れる。
『じゃあ、もっと医者を呼んでくれ!
早くこの血を止めてくれ!
輸血とか…あるだろう!治療が!』
ふたりのやり取りに、和彦はゆっくりと瞼を開けた。
『…さぎり…来てくれた…』
うっすらと微笑む。
まるで午睡から目覚めたような穏やかな表情だ。
狭霧は医師を押し退け、和彦を抱き上げた。
『和彦…!和彦…!しっかりしろ!
今…今助けてやるから…』
和彦は微かに…はにかんだように眼を細めた。
そうして、弱々しい…けれどいつもの優しい口調で囁く。
『…そんなことより…愛している…て言ってくれ…。
今日は…イブだよ…』
狭霧の瞳から一気に涙が溢れ出す。
涙で和彦の貌が歪む。
慌てて涙を拭い、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
『愛している…!愛している!愛しているよ!
ずっと前から…!愛している…!
何回だって何万回だって言ってやるさ…!
だから、しっかりしろ…!
死ぬな!死ぬな!』
その血溜まりの中に、和彦は横たわっていた。
眼を閉じているその貌は紙よりも白く、まるで生気がない。
…とても現実とは思えない光景だ。
夢だ…。
夢なら悪夢だ。
早く、早く醒めてくれ。
願いながら和彦に駆け寄る。
『和彦…!和彦…!』
必死で声を掛ける。
和彦の傍には初老の男が和彦の脈を取っていた。
見覚えがあるその貌は、近くの町医者だ。
何の処置もしていないじゃないか!
焦れた思いが爆発する。
『早く病院に運んでくれ!』
狭霧は怒鳴る。
『今、動かせば更に大出血する。
血圧も下がって危機的状況だ』
医師は力無く首を振った。
その表情から、和彦の容態が如何に絶望的かが見て取れる。
『じゃあ、もっと医者を呼んでくれ!
早くこの血を止めてくれ!
輸血とか…あるだろう!治療が!』
ふたりのやり取りに、和彦はゆっくりと瞼を開けた。
『…さぎり…来てくれた…』
うっすらと微笑む。
まるで午睡から目覚めたような穏やかな表情だ。
狭霧は医師を押し退け、和彦を抱き上げた。
『和彦…!和彦…!しっかりしろ!
今…今助けてやるから…』
和彦は微かに…はにかんだように眼を細めた。
そうして、弱々しい…けれどいつもの優しい口調で囁く。
『…そんなことより…愛している…て言ってくれ…。
今日は…イブだよ…』
狭霧の瞳から一気に涙が溢れ出す。
涙で和彦の貌が歪む。
慌てて涙を拭い、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
『愛している…!愛している!愛しているよ!
ずっと前から…!愛している…!
何回だって何万回だって言ってやるさ…!
だから、しっかりしろ…!
死ぬな!死ぬな!』