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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
和彦は嬉しそうに微笑んだ。
『…やっと聞けた…。
もう…今死んでも悔いはない…』
…弱々しい声。
今にも息絶えそうな声に狭霧は恐怖に襲われる。
『やめろ。そんなこと言うな。
大丈夫だ。
おい!藪医者!早く和彦を病院に運んでくれ!』
医者の胸ぐらを掴む狭霧の手を、血塗れの指が制する。
『…いいんだ…。もう…。
狭霧に会えた…。
狭霧が愛していると言ってくれた…。
もう…思い残すことはない…』
和彦にそれ以上言わさぬように頭を掻き抱く。
『やめろ。やめないとぶっ殺す…!
絶対に助かるから、喋るな…!』
狭霧の胸の中で、喘ぐような声が聴こえる。
『…聞いてくれ…狭霧…。
僕は…ずっと君に謝りたかった…。
…僕が勝手に君を好きになって…君の運命を狂わせた…。
…ごめんね…狭霧…』
切ない懺悔に胸が張り裂けそうになる。
『…何…何言ってるんだ…』
…和彦の震える指が、狭霧の頬を愛おしげに撫でる。
『…僕が…君に恋をした…。
君は誰よりも美しく…煌めいていて…どうしようもなく…恋をした…。
君と離れたくなくて…独占したくて…こんなところまで連れてきてしまった…。
君は優しいから…君の優しさに甘えてしまった…。
…ごめんね…狭霧…』
なぜ、こんなことを和彦に言わせるんだ。
和彦は、ずっと自分をそんなふうに見ていたのか。
俺は、それにずっと気づかなかったのか。
腹立たしく、哀しく、身が斬られるように辛い。
『和彦…怒るぞ。
俺が同情だけで巴里まで来たとでも思ってるのか?
ふざけるな…!
俺は…俺は…お前が好きだから一緒に来たんだ…。
それ以外何がある⁈』
幸福そうな光が、和彦の瞳に柔らかく宿る。
『…充分だ…。
君に愛していると言われて…君の腕の中で死ねる…。
…日本にいたら、離れ離れにされていた…。
…何の悔いもないよ…』
涙に濡れた頬を、和彦のそれに押し当てる。
…既に体温を失くしつつある和彦の肌…。
叫び出しそうに怖い。
『和彦、やめろ…!今、病院に運ぶ。必ず…必ず助かるから…』
和彦のひんやりした手が、狭霧の手を求める。
それを強く、強く握りしめる。
…和彦が飛び立たないように。何処にもいかないように。
血の気のない口唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『…ねえ、狭霧…。約束して…。
僕が死んでも…君は幸せになって…。
幸せに…生きると約束して…』
『…やっと聞けた…。
もう…今死んでも悔いはない…』
…弱々しい声。
今にも息絶えそうな声に狭霧は恐怖に襲われる。
『やめろ。そんなこと言うな。
大丈夫だ。
おい!藪医者!早く和彦を病院に運んでくれ!』
医者の胸ぐらを掴む狭霧の手を、血塗れの指が制する。
『…いいんだ…。もう…。
狭霧に会えた…。
狭霧が愛していると言ってくれた…。
もう…思い残すことはない…』
和彦にそれ以上言わさぬように頭を掻き抱く。
『やめろ。やめないとぶっ殺す…!
絶対に助かるから、喋るな…!』
狭霧の胸の中で、喘ぐような声が聴こえる。
『…聞いてくれ…狭霧…。
僕は…ずっと君に謝りたかった…。
…僕が勝手に君を好きになって…君の運命を狂わせた…。
…ごめんね…狭霧…』
切ない懺悔に胸が張り裂けそうになる。
『…何…何言ってるんだ…』
…和彦の震える指が、狭霧の頬を愛おしげに撫でる。
『…僕が…君に恋をした…。
君は誰よりも美しく…煌めいていて…どうしようもなく…恋をした…。
君と離れたくなくて…独占したくて…こんなところまで連れてきてしまった…。
君は優しいから…君の優しさに甘えてしまった…。
…ごめんね…狭霧…』
なぜ、こんなことを和彦に言わせるんだ。
和彦は、ずっと自分をそんなふうに見ていたのか。
俺は、それにずっと気づかなかったのか。
腹立たしく、哀しく、身が斬られるように辛い。
『和彦…怒るぞ。
俺が同情だけで巴里まで来たとでも思ってるのか?
ふざけるな…!
俺は…俺は…お前が好きだから一緒に来たんだ…。
それ以外何がある⁈』
幸福そうな光が、和彦の瞳に柔らかく宿る。
『…充分だ…。
君に愛していると言われて…君の腕の中で死ねる…。
…日本にいたら、離れ離れにされていた…。
…何の悔いもないよ…』
涙に濡れた頬を、和彦のそれに押し当てる。
…既に体温を失くしつつある和彦の肌…。
叫び出しそうに怖い。
『和彦、やめろ…!今、病院に運ぶ。必ず…必ず助かるから…』
和彦のひんやりした手が、狭霧の手を求める。
それを強く、強く握りしめる。
…和彦が飛び立たないように。何処にもいかないように。
血の気のない口唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『…ねえ、狭霧…。約束して…。
僕が死んでも…君は幸せになって…。
幸せに…生きると約束して…』