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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
…それからの記憶が、狭霧にはあまりない。
朧げな、断片的な記憶が、まるで切れ切れの雲のように浮かんでは消え、浮かんでは消え…と曖昧にあるだけだ。

次にある記憶は、教会だ。
モンマルトルの丘にある小さな教会で、和彦の葬儀は行われた。
美術学校の友人たち、教師、下宿の女将、住人たち、バールのオーナー、従業員…。
驚くほどにたくさんの人々が、和彦の為に集まり、嘆き、最後の祈りを捧げてくれたのだ。
この穏やかで優しく才能に溢れた異国の青年を、彼らは皆、愛していたのだ。

棺に収められた和彦は、白百合の花に埋められ、まるで眠っているようだった。
狭霧は棺にイブに贈るはずだった絵筆と絵の具を入れた。
棺が閉じられる前、最後のキスをした。
…氷のように冷たい唇…。
その唇は、二度と狭霧に微笑むことはないのだ。

狭霧は、そっと囁いた。

『…和彦…。
俺はもう誰も愛さないよ…』

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