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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第1章 出会い
車が着いたのはパリの16区、ブーローニュの森に近い高級住宅街だ。
…ここはフランス人はもとより、外国の高官や貴族、富裕層が住む特区のようなエリアだ。

ロールスロイスは、ギマールの設計らしき三階建てのアール・ヌーヴォー建築の瀟洒な屋敷の車寄せに滑り込んだ。
重厚な玄関前には、正装姿の初老の執事らしき人物が直立不動で出迎えていた。

「さあ、着いたよ。私の私邸だ。
…まずは傷の手当てが先だな」
颯爽と車から降りる男の袖を慌てて引く。
「…ちょ、ちょっと待って。
あんた、一体…何者?」

男はにっこりと微笑んだ。
「まだ名乗っていなかったか。
これは失礼したね。
…私は北白川貴顕。
フランス大使館のパリ公使の役職に就いている」

「…北白川…って…」
狭霧は息を呑む。
「…北白川…伯爵…?」
「おや?嬉しいね。
知っていてくれるのか?」
狭霧は憮然とした。
「…日本人で、新聞を読む大人で、あんたを知らないひとはいないよ」
…北白川伯爵…北白川貴顕。
由緒正しい名門貴族の若き当主であり、貴族院議員でもある。
また、今上陛下との血縁もある華々しい出自の男だ。
彼は子どもたちの教育に力を入れていて、貧しい農村部や僻地に赴き、学校を建てる援助をしていた。

更には優秀な若者を給費生として大学に通わせる活動に多額の寄付をし、自ら視察の旅にも出るという所謂従来の貴族的なそれとは異なる革新的な人物として世に広く知られていたのだ。

…そうか、俺は二年前にパリに渡っていたから知らなかったけれど、外交官になっていたのか…。

「君のような美しい若者に知られていて光栄だ。
…それで?君の名前は…?」

…名乗らない道理はない。
「…泉狭霧」
無愛想に呟く。
男…北白川は形の良い眉を一瞬跳ね上げた。
「…いずみさぎり…」
「な、なんだよ…」
居心地悪そうに仏頂面をする狭霧に、北白川はにこやかに笑った。
「…いや。
君の貌に似合うとても綺麗な名前だと思ってね」

…そうして…

「さあ、中に入り給え。
どうやら大雪になりそうだ。
凍える前に温かいショコラでも飲もう」
まるでお茶会に招待したかのような優雅さで、手を差し伸べたのだ。

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