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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第3章 新たなる道の前で
…目覚めると、狭霧は広々とした豪奢な寝台に寝かされていた。
意匠が凝った天蓋からは、蜂蜜色の紗幕が掛かっている。

…ここは…どこだ…?

やがて切れ切れに昨夜の記憶が甦る。

…ああ…。そうだ。
確か…路上に転がっていた俺は北白川伯爵に拾われて、彼の屋敷に…。
それで、和彦の話をして…

…それから…
…それから…?

思い返していると、密やかにノックの音が響いた。

「…monsieurイズミ。朝食がご用意できております。
お着替えの上、一階の朝食室にお越しください」

昨夜の慇懃な執事が現れた。

慌てて起き上がる。
「…あのさ、俺、どうやってここに…」
…全く記憶がない。

執事はにこりともせずに、部屋のカーテンを開ける。
…積もった雪の照り返しの白さと真冬の太陽が眩しい。

「…旦那様がお運びになられました。 
下僕がすると申しましたのに…」
苦々しげな声だ。

「…へ?」

執事はじろりと狭霧を見遣り、忌々しそうに告げた。
「…貴方様は旦那様のお膝で眠ってしまわれたのです。
それで、旦那様はこちらまで貴方様をお抱きになり運ばれました」

「…へ⁈…」
…やべえ…。
もしかして、泣き疲れてそのまま寝ちゃったのか⁈
全く記憶にないから、信じ難い。

「…前代未聞でございますよ。何もかも…!
若い男を自ら抱いて寝室になど…!
旦那様の威厳が損なわれるというのに…!
…monsieurイズミ。
とにかく急ぎお着替えを」

その言葉に背いたら、八つ裂きにされるのではと思わせるような低い声で、マレー執事は狭霧に命じたのだ。




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