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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第3章 新たなる道の前で
「…あ、あの…。
それは…ごめん…。
余計なこと、聞いちゃって…」

しどろもどろに謝る狭霧に、伯爵は穏やかに首を振る。
「…謝ることはない。
…妻は神様の元に召されてしまったが、天使のように可愛らしく愛おしい娘を私に遺してくれた。
とても感謝しているよ。
私は、妻の分まで娘を愛し、幸せにしたいと思っている。
娘は何にも代え難い私の宝物であり、私の命だ」 
その真摯な言葉に、深い愛と慈しみを感じた。

…大貴族で美形の伯爵様も普通の優しい父親なんだな。
少し微笑ましく感じる。

「…あんた、良い父親なんだな」
「ありがとう。
…そういえば、昨日の君の話で、縣礼也くんのことが出てきたね」
「ああ。
船の手配をしてくれた縣男爵家の御曹司ね」
…伯爵とはまたタイプが違ったが、彼も完璧な貴公子だったな…。
…ちょっと女の趣味が、アレだったけれど…。

「…彼は娘、梨央の後見人で、内々に親同士が決めた婚約者だ」

「へ⁈」
余りの偶然に、狭霧は面食らう。

「私と彼の父親の縣男爵は華族学院時代の友人でね。
私は海外生活が長い。
私の不在の間、梨央を社会的にも精神的にも支え、護るしっかりした後ろ盾や成人男性が必要だろうと言われたのだよ。
それで、礼也くんにお願いしたのだ。
…縣は梨央と礼也くんを結婚させたいらしい。
私も彼なら異存はない。
彼は実に男らしく賢く何より心優しく頼れる人物だからね。
そこで口約束ではあるが親同士が婚約を取り決めたのだよ。
…もちろん、梨央が成人したあかつきには、彼女の意思をきちんと確認するがね」

貴族の世界では幼い頃からの婚約など珍しいことではない。
生まれた時から名門の血筋を守り、家の繁栄のために親同士は様々な画策や奔走をするのだ。

「…ふうん。なるほどね。
じゃあ、この子がオーロラ姫かあ…」
狭霧は改めて写真を見つめた。


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