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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第3章 新たなる道の前で
…母子の写真立ての隣には、少女一人が写っている写真があった。
どうやら最近撮られたものらしい。
梨央という名のその少女は、確かに息を呑むほどに美しい貌立ちをしていた。
まだ幼女なのに繊細に緻密に目鼻立ちが整い、レースがふんだんにあしらわれた華やかなドレスとチュールが結ばれた鍔の広い帽子を身に纏っているさまは、まさに愛らしくも高貴な人形のようだ。
どこか神秘性すら感じさせる清楚で﨟丈た美貌は、子どもとは思えない独特な透明感のあるオーラを纏っていた。

「オーロラ姫?」
伯爵が関心を示した。
「縣さんが言ってたんだよ。
私のオーロラ姫…てさ。
あのひと相当梨央ちゃんに夢中らしいよ。
いや、恋をしていたな。
六歳と聞いてちょっと引いたけれど…。
…うん。写真を見たら納得だ。
こりゃあ別嬪さんだ。
将来楽しみだね」

伯爵が愉快そうに笑い声を立てる。
「それはありがとう。
…オーロラ姫か…。
礼也くんなら勇敢かつ優雅で美しいデジレ王子になれるだろうね」
嬉しそうに眼を細めた。
そうして、しみじみと語り始めた。
「梨央は亡き妻に似て、身体があまり丈夫ではなくてね。
私の仕事は数年おきに様々な外国を転々と移り住まなくてはならない。
まだ幼く病弱なあの子を連れてゆく訳にはいかなくて、日本に残しているのだ。
…礼也くんなら安心して梨央を託せる。
彼は私の知る限り理想的で完璧な青年だからね」

「…確かに、そんな感じのひとだったな…」
船の中での礼也の紳士ぶりを思い出す。
…自分たちに信頼できる友人も紹介してくれたっけ…。
あの住所が書かれたカードは和彦が大切に持っていた。
…けれど、それらの遺品はすべて山科子爵夫妻が日本に持ち帰っていった。
自分には、この遺灰しか残されなかった…。
シャツの上からペンダントのロケットを無意識に押さえる。

哀しい記憶を振り払うように、狭霧は髪を掻き上げた。

「…で?
俺に何の用?」







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