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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第3章 新たなる道の前で
北白川伯爵はデスクの引き出しの中から、一通の手紙を取り出し、狭霧の前に置いた。
…宛名の見覚えのある綺麗な筆跡に、狭霧の大きな瞳が見開かれる。

…ユキ…!

「…君の弟さんからの手紙だ。
一通は領事館宛だった。
君のことを懸命に探している内容だったからね。
私が個人的に調査してみようと持ち帰っていたのだ」

しばらく手紙を見つめていたが、狭霧は首を振る。
「…読まない。
俺はもう家族とは関わらないって決めたんだ」

「読みなさい。
弟さんがどれだけ君の心配をしているか、君は読んで知るべきだ」
今まで穏やかだった伯爵の声が、凛と強くなった。

狭霧は唇を引き結んだ。
頑として首を振った。

「…読みなさい…。
君のためではない。
弟さんのために、読んであげなさい」
今度は優しく背中を押すような声だった。

「…読んであげなさい…」

…その声に導かれるように、狭霧はこわごわと手紙に手を伸ばした…。

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