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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第3章 新たなる道の前で
震える手で封筒を開け、中の便箋を開く。
…青いインク、美しい繊細な文字…。
懐かしい、千雪の字が連なっていた…。

…ユキ…!

『兄さん。
お元気ですか?
今、どこにいるのですか?
僕は毎日毎日兄さんの心配をしています。

…和彦さんの不幸な事件を知りました。
兄さんがどれだけ悲しんでいるのかと思うと、僕の胸も痛みます。
あの事件以来、色々なことが起きました。
…兄さんはもうご存知かも知りませんね。
お父さんが先に手紙を出したから。
僕が一番心配しているのは、お母さんの死を兄さんが悔いて、ご自分を責めているのではないかと言うことです。
兄さん、お母さんの死は兄さんのせいではありません。
お母さんは元々、軽く胸を患っていたことがあり、腺病質だったのです。
疲労と流感に罹ったことが不幸にも重なり、亡くなってしまいましたが、お母さんは最期まで兄さんのことを気にかけていました。
…それから感謝もしていました。
腹違いの兄弟の僕のことをとても可愛がってくれたこと。
自分のことを最後にお母さんと呼んでくれたこと。
いつか日本に帰ってきたら、逢いたいということ。
恨みごとはひとつもありませんでした。
ただ、ひたすら兄さんのことを心配していました。

…僕もそうです。
兄さんが心配で、ただただ兄さんに逢いたいです。
お父さんが送った上海行きの切符と小切手は送り返されてきたと聞きました。
兄さんはまだ巴里にいるのでしょう。
そんな気がします。
本当は今すぐ兄さんを探しに巴里に行きたい。
…けれど今はお父さんと一緒にこの「泉や」の暖簾を守り、家をまた再興するために、東京で頑張ります。
兄さんがいつの日か日本に帰ってきたときに、笑って出迎えられるように…。
お父さんも本当はそう思っているのです。

…だから兄さん。
元気でいると、手紙を下さい。
ただ一言だけで良いです。
それだけで、それだけで…。
僕は…僕は…兄さん、貴方が…。』

…手紙は、そこで終わっていた…。






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