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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第1章 出会い
マレーに手渡された着替えを身につける。
…それは、びっくりするほどに高価なメゾンのシャツとスラックスだった。
髪をさっぱりと撫で付け、身支度を整えた。
温かな湯にゆっくりと浸かったおかげか、さっきよりは気持ちが少し和らいでいる。
「…こちらで旦那様がお待ちです」
マレーは相変わらず、狭霧を睥睨するように見遣り、けれど慇懃に長い廊下を誘導した。
「ここってさ、あの伯爵ひとりで住んでんの?」
廊下のラファエロに眼を見張りながら前を行く厳格で頑固そうな背中に尋ねる。
「…はい。左様でございます」
「奥さんは?いないの?」
ぴたりと立ち止まり、ゆっくりと振り向かれる。
濃灰色を帯びた青い瞳が狭霧を射抜く。
「細いことは旦那様に直接お尋ねを。
…私はまだ氏素性も知れぬ方に、旦那様の私的なことを軽々しく話すつもりはありません」
「…あ、そ」
…気取りやがって。
執事だかなんだか知らないけど。
狭霧は心の中で悪態をつく。
突き当たりの部屋の扉の前、マレーが丁重にノックし、ゆっくりと押し開く。
「…旦那様。
monsieurイズミをお連れしました」
マレーはそれまでの言葉とは裏腹に、最上の礼儀を持って狭霧を室内へと誘った。
…それは、びっくりするほどに高価なメゾンのシャツとスラックスだった。
髪をさっぱりと撫で付け、身支度を整えた。
温かな湯にゆっくりと浸かったおかげか、さっきよりは気持ちが少し和らいでいる。
「…こちらで旦那様がお待ちです」
マレーは相変わらず、狭霧を睥睨するように見遣り、けれど慇懃に長い廊下を誘導した。
「ここってさ、あの伯爵ひとりで住んでんの?」
廊下のラファエロに眼を見張りながら前を行く厳格で頑固そうな背中に尋ねる。
「…はい。左様でございます」
「奥さんは?いないの?」
ぴたりと立ち止まり、ゆっくりと振り向かれる。
濃灰色を帯びた青い瞳が狭霧を射抜く。
「細いことは旦那様に直接お尋ねを。
…私はまだ氏素性も知れぬ方に、旦那様の私的なことを軽々しく話すつもりはありません」
「…あ、そ」
…気取りやがって。
執事だかなんだか知らないけど。
狭霧は心の中で悪態をつく。
突き当たりの部屋の扉の前、マレーが丁重にノックし、ゆっくりと押し開く。
「…旦那様。
monsieurイズミをお連れしました」
マレーはそれまでの言葉とは裏腹に、最上の礼儀を持って狭霧を室内へと誘った。