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自分の為のBL
第5章 降り口は、進行方向左側。
と。
そこには初めて自分に向けられた視線があった。
急激に心拍が激しさを増して行くのに、絡んでしまった視線をそらす事も出来ない。
ブックカバーで覆われた本の向こうから、飽きれと苛立ちを湛えて俺を見ている目は、伏せられて居る時に想像していたのより大きくて、クールそうなイメージを少し崩した。
「ね、どうしたの?知り合い?」
相変わらず腕にしがみつく様にしながら、俺の様子が変わった事に気付いたらしい声が、わざとらしく俺の思考に踏み込んで来る。
「いや、あの……」
質問に答える気にもならない位の居心地の悪さに、穴があったら埋まりたい位だ。
なのに、まるで付き合ってる彼女みたいに威嚇の視線を送って、何故かエリートな彼と火花を散らしている様に見える。
先週から見知っていて、さっき初めて声を聞いた彼。
今日初めて会って、付き合って無ければ好きでもない彼女。
名前も知らない二人が、自分を挟んで睨みあってる状況に混乱の極みだ。
そんな俺に大した時間も与えてはくれず、無情にも電車は無人駅に滑り込んで目の前の扉を開けた。