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春雷に君
第2章 一夜明けて
「いらっしゃいませ~。二名様ですね、お好きな席へどうぞ~」
40代くらいの男性がカウンターキッチンから顔を覗かせて穏やかに微笑む。
その人へペコッとした市崎くんにつられてペコッとして「テーブルでいい?」と振り返った市崎くんにうなずく。
入口からもカウンター席からも離れたテーブル席に向かい合って腰を下ろすと、ふと視線を感じた。
おしぼりで手を拭きながら視線を巡らせると、先客である女性客がちらちらと市崎くんを盗み見ていた。
私と目が合うとパッとそらす人もいれば、キッと睨んで敵意を向けてくる人もいる。
――こ、こわぁ……。
「は~、お腹ペコペコ。ほら藤崎、メニュー表」
視線に気づいていないのか、気づいていないふりをしているのか、市崎くんは何ともない顔でメニュー表を渡してくる。
――いや、さすがに……。
気づいているだろう。
日常的に知らない人間から視線を向けられるってなかなかストレスだろうな。モテる人は大変だ……と市崎くんをチラ見すると「ん?」と首をかしげる。
「ああ、俺は決めてるからメニュー見てていいよ。ちなみにどれもおすすめだけど、特におすすめなのはハンバーグ定食と――」
「ハンバーグ定食にする」
「あはは、決断が早い。ごはんの量は普通?」
「うん、普通で」
「おけ。すみません、注文お願いします」
市崎くんが手を挙げて声をかけると、女性店員がにこにこしながらやって来た。
「いらっしゃいませ~、おはようございます!」
「おはようございます。ええと……ハンバーグ定食をひとつと、から揚げ定食をひとつで、ごはんはひとつだけ大盛りでお願いします」
「はい、かしこまりました。ところで市崎くん。こちらは彼女さん?」
――えっ。
女性の言葉にやや動揺する私をちらりと見て
「……まぁ、そうなればいいなって人です」
口元をゆるめる市崎くんと、へぇ~? とにやつきながら市崎くんと私を交互に見る女性。
――まぁ、セフレです。とは言えないしね。それより……。
店員に名前も知られてるほど常連ってこと? とそっちのほうが気になる。