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春雷に君
第2章 一夜明けて
あっという間に食べ終えて「また来てくださいね」というご夫婦に会釈をして、定食屋をあとにした。
店の前で解散でいいと言ったけど、「バス停まで送る」と言う市崎くんとゆっくり歩きながら最寄りのバス停を目指す。
「あ~、ほんとおいしかった~」
「俺も~。次はから揚げ定食食べてみてよ」
「うん。また行きたい。ごはんもさ、普通盛りでも量結構あってお腹いっぱい。めちゃくちゃ満足!」
「気に入ってもらえてよかった」
先ほど頬杖したときと同じように穏やかに笑う市崎くんが私の服を掴んで足を止めた。
「ね、藤崎。俺たち、また会えるんだよね?」
「え、うん」
「じゃ連絡先交換しよ」
「あ……そうだね」
スマホを取り出して連絡先を交換する。
連絡先に追加された市崎くんの番号を見ていると、同じようにスマホを見ていた市崎くんが顔を上げる。
「藤崎の下の名前って、みやこ、だったよね。漢字はどう書くの」
「都心の都、ひとつで都だよ。市崎くんの、そうご、はどんな漢字?」
聞き返すと市崎くんは目を見開いて固まった。
「……市崎くん?」
どうしたのかと声をかけるとハッとした様子で「なんでもない」と言う。
「俺は……総合の総に、覚悟の悟で総悟」
「へぇ、いい漢字だね。フルネームで登録しとこ」
「え……じゃ俺もそうする」
ポチポチと互いにスマホをいじる。
登録が完了してスマホ画面を見せると、市崎くんも照れた様子で見せてくれた。
「次、いつ会える?」
「ええと……ちょっと待ってね。一番最短で……再来週とかなら……」
「来週末は予定あるの?」
「あ……うん。ごめんね。ごはんだけなら平日の夜でも……」
「男と会うの?」
「それは……市崎くんに言う必要ないんじゃないかな」
冷静に言うと、市崎くんははぁ、と息を吐いて「確かにそうだね」と困ったように笑った。
「バスの時間まであとどれくらい?」
「たぶん、あと5分くらい」
「バスが来るまでは、俺との時間だよね」
そう言った市崎くんに物陰へと連れていかれる。