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春雷に君
第3章 思惑どおり
「……もしもし?」
『着いたよ。どこにいる?』
「改札口のところ……」
『わかった。電話は切らないで』
「う、うん」
黙って耳をすませていると、市崎くんの息遣いがかすかに聞こえてきた。
――まさか、走ってる?
そんなことないか、と考えていると
『藤崎、見つけた』
ホッとしたような声を出す市崎くんにドキッとして周囲を見回すと、こっちに向かってくる市崎くんを見つけた。
――あ……いた。
周りがちらちらと市崎くんを見る中、市崎くんはよそ見せずまっすぐ私を見て歩いてくる。
『お待たせ。会えたから切るね』
「うん」
「あっちに車停めてるから行こ」
スマホをポケットにしまった市崎くんが手を差し出してきた。
うなずきながらそっと手を伸ばすとグイッと掴み取られる。
「……誰かに声かけられたりしなかった?」
「声? かけられてないよ」
「本当に?」
「うん。何で?」
「いや……なんでもない」
「……?」
市崎くんはそのまま黙ってしまった。
手を引かれて歩いていくとあっという間に車のところへ到着して、「どうぞ」と誘導されて助手席へ乗り込む。
「晩ごはんは済ませた?」
「うん」
「何か買いたいものある?」
「ううん、大丈夫」
「わかった。じゃ俺んち行こ」
車が動き出す。
何を話したらいいかわからずに黙ったまましばらく揺られていると、マンションの敷地内にある駐車場に到着した。
「着いたよ」
車から降りると市崎くんが黙って私の手を掴む。
そのまま住人用入口からマンション内へ入ってエレベーターを待つ。
手が熱い。自分の手か、市崎くんの手、どちらが熱いのかわからない。
のどが渇く。きっと緊張しているせいだ。
エレベーターが到着して乗り込む。
扉が閉まった瞬間、抱き寄せられた。
「……男の匂いがする」
耳の裏あたりをクンクンと嗅いだ市崎くんがつぶやいた言葉にギクリとする。
しまった、と思いながら何も言えずにいると「俺の匂いで上書きすればいいか……」と吐息混じりにささやかれて耳はもちろん首や顔まで熱くなる。
エレベーターを降りて、手を引かれて部屋へ向かう。
玄関に入るとすぐ市崎くんに唇を奪われた。