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春雷に君
第1章 どうかしている
「お、写真よりきれい」
部屋に入るなり背負っていたリュックをソファー横に置いた市崎くんは、まるで自分の部屋かのように自然な動きで備え付けの冷蔵庫を開いた。
「藤崎、なに飲む?」
声をかけられて冷蔵庫を覗き込む。
安いホテルのわりに酒類の他にお茶やコーヒー、栄養ドリンクから精力剤まで揃っている。
「あ、コーヒーがいい」
缶コーヒーを受け取ってソファーに腰を下ろすと、またも自然と市崎くんは隣に座る。
「藤崎と会うの、何年ぶりだろうな。高校卒業以来だから……」
高校だけの同級生かと思っていたら、どうやら中学も同じだったようで共通の話題が意外とあった。
同級生の話を筆頭に、体育祭や文化祭といった行事の話、部活や委員活動の話など、近すぎず遠すぎずな距離感で愛想よく話してくれる市崎くんに徐々にリラックスしていく。
気づけば――
30分なんてあっという間で最終バスの時間もとっくに過ぎていた。
「市崎くんちって、ここから近いの?」
「うん。歩いて帰れる距離かな」
「へぇ、いいね。私は距離あるから今日は帰れないけど、市崎くんは気にせず帰っていいからね」
「え……あ、もうこんな時間なんだ。ごめんね、俺が引きとめたから最終過ぎちゃったよね?」
確かに、引きとめてきた市崎くんを振りきっていれば最終バスに余裕で間に合った。
なのに、そうしなかったのはどうしてだろう。
「いやいや。それで断らなかったのは私だし」
「……じゃあさ、もう少し、いてもいい?」
深く考えずにうなずいたけど、もうだいぶ眠いことに気づいた。
「いてくれて全然いいんだけど、私さ、シャワー浴びてきていい?」
「へ!?」
「実は結構眠くて……化粧も落としたいし……ふぁぁ~~」
あくびを手で隠す。まぶたが重い。
「……どうぞどうぞ。俺のことは気にせず、ゆっくり入っておいでよ」
「うん……ありがとう。いってきます~」
少しだけふらつきながら浴室へ向かった。