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春雷に君
第5章 春雷
「なんだよ」
「あ、すみません。いやでも、やだって……あははっ」
「前田さん、そんな笑ったら失礼だって……くくっ」
「……笑ってろ。トイレ行ってくる」
スマホだけ持って手洗いに行く。
用を足してなんとなくスマホを確認すると藤崎からラインがきていた。
『今日飲みに行くって言ってたよね。あとで電話できる? 声聞きたい』
――は? かわいいかよ。
前田と小牧には悪いが、これは早めに解散だな……と思いながら席に戻ると、前田が俺の顔を見てにやりとする。
「先輩、何かいいことありました?」
「えっ」
「口角上がってますよ~ふふっ」
――めざといな、前田。
「……相談なんだけど、早めに解散ってあり?」
「もしかして、例の君さんとこれから会うんですか~?」
にやにやする前田と、
「全然ありですよ!」
にこっとさわやかに笑う小牧。
前田はおそらく、酔っている。
「おまえたちはまだ食べ飲みしてていいから。代金も多めに置いてくし。もし足らなかったら……小牧、悪いけど立て替えといて」
万札を二枚渡すと小牧は「えっ、多くないですか!?」と焦っていたが、今の俺からすれば安いほうだ。
「余ったら、今回協力してくれたことに対するお礼として、前田と二人で受け取ってくれ」
「俺は特に何もしてないんですけど……。合コン開いておこぼれでかわいい子の連絡先ゲットしていい思いしたから逆にラッキーというか……」
「おー、よかったな。じゃその子とのデート代の足しにでもしてくれ」
「……ありがとうございます」
ペコッとする小牧を見て、前田も、しおらしい表情をする。
「私も……阿部くんと付き合えることになったから逆に先輩のおかげのような……」
「違うだろ、前田だから付き合えたんだ。そのへんの女じゃ阿部はなびかなかったと思う」
「え……先輩もしかして褒めてくれてます?」
「ああ、全力で褒めてる」
「先輩が褒めてくれるなんて……明日、ゲリラ豪雨かも。ね? 小牧くん」
「えー、先輩は俺をよく褒めてくれるよー」とヘラヘラ笑う小牧にムッとしたのか前田が小牧の肩をグーパンチしている。