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春雷に君
第5章 春雷

「じゃ、お先に。気をつけて帰れよ」

立ち上がりながら言うと、二人とも「先輩も気をつけて~」と笑ってくれる。
いい後輩を持ったな、と思いながら店をあとにする。


夜風が心地いい。
電車に乗ってから藤崎へ『これから帰るから、20分後くらいに電話するね』とラインを送った。

――早く、声聞きてぇ……。

自宅まではたったの二駅だが、時間が長く感じた。
電車を降りる直前にラインを確認するけど、藤崎からの返信はない。

――既読はついてんだけどな。

まぁ家ついてすぐ電話かけるつもりだし、と思いながら改札を抜けて『今、駅。もうすぐ家につくよ』とはやる気持ちを抑えられずに実況ラインを送ってしまう。

――相手が、藤崎だからだよなぁ。

藤崎の顔を思い浮かべていると、スマホが震えた。
藤崎からの着信。

『もしもし?』

『あ……こんばんは』

控えめな声で挨拶する藤崎がかわいい。

『どうしたの、俺からかけるつもりだったのに』

『いや……その……気持ち悪かったらごめんなんだけど……』

『ん?』

『……実は今、市崎くんちの前にいまして……』

『へ!?』

『声どころか……顔を見たくなって、来ちゃった……』

『……ダッシュするわ。待ってて』

通話を切らずにスマホを握りしめて走る。

――まじか、まじかよ……!!

嬉しさのあまり走りながら顔がにやけてしまう。
そりゃあ、俺だって声を聞きたいどころか会って顔を見て抱きしめたいと思ってたし、セフレという関係だけど、頻繁に会って体だけ目的なんて思われたくなくて。

どれくらいの頻度で会うべきか考えていたタイミングで藤崎から会いに来てくれるなんて本当に嬉しい。

自分のマンションが見えてきた。
エントランス前に人影が見える。
ゆるやかに走るスピードを落とすと、そわそわと落ちつかない様子でスマホを見つめていた藤崎がこちらを見た。
俺に気づいて、ふわりと笑う藤崎に鼓動が高鳴る。

「はぁっ、はぁっ、おまたせ……っ」

肩で息をする俺に「大丈夫? 深呼吸して」と背中を撫でてくれる藤崎。

どこかで――雷の鳴る音がする。

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